綺麗な人。
□金色の音
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五月上旬。春眠暁を覚えずとはよく言ったものだ。まぁ今はもう初夏にあたるのかもしれないけれど。
「おい」
10分休憩の間に居眠りしようと机に突っ伏せていたら、いつの間にか授業が始まっていたらしい。
課題提出で後ろから誰かが集めてきたらしく、私を起こそうとしてる。
寝ぼけた頭でごそごそと机の中を探し、見つけた紙をへい、と軽く渡す。途中までしかやれてないけど、いっか。もう私にはそんな気力なんて無い。
あれ、そういえば今の人の声聞き覚えがある。なんでだろ。
ふと教卓に紙を置いていくその人の姿を見れば、一気に眠気が吹き飛んだ。
「えっ、青峰大輝?」
まさか、嘘でしょ。なんでこんなところにこの人がいるの。
男子の名前なんかクラスでもほとんど知らない。そこらの人参と同様な感覚で一ヶ月程すごしてきた。
でもこの人がいるのならもっとちゃんと確認しとけば良かった。なにせ席が前なものだから後ろの方に座っている人なんかよほどのことが無い限り接点が無い。
同じクラスと言えど、顔と名前が一致しているのはごく一部の人だけだった。
「あ?なんだよ」
間違いない。この真っ黒な人物。中ニのあの時会った、あの「キセキ」の人だ。
そっか、バスケ推薦ここ力いれてるんだっけ。とりあえずよく分かんないけど、本当驚いた。
「お、なんか見たことある顔だな。……思い出せねぇけど」
なんじゃそりゃ。見たことあると思うんなら覚えときなさいよ俺様バスケ野郎。
「中二ん時、あんたがストバスしてる時に会ったわよ。覚えてなさそうだけど」
「あー、いやなんか分かるわ。そんな気がしてきた。何だっけ?俺に見とれてたんだっけ?」
またあの時と変わらない、黒い笑顔が私に向けられる。いや、でも少し暗くなった。もっと輝いていたはず、この人は。
「そうねー、あの時のプレイはすごく綺麗だった。今もやってるんでしょ?」
「……まぁ、そうかな」
席に着けー、という先生の声で辺りはまた何事も無かったように世界に終わりを告げる。
感動の再会、とかならないんだな。あの変わってしまった彼では。
でも変わったのは私の方かもしれない。窓の外を見れば、飛行機雲が一線、寂しく漂っていた。