綺麗な人。
□透明の君
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うとうととあたたかな日差しを恩恵を受けて眠るところだった。
練習なんていくだけ無駄。強くなるばかりじゃよけいつまんなくなる。
今日もそんな感じでさぼっていた。
いきなり扉の開く錆びれた金属音がして、誰かきたのかと眉間を寄せる。うるせえな、と頭を持ち上げようとしたら、体が震えた。
聞いたことのない、高く澄み切った音色。それが周りの空気と連動して俺の体まで振動させた。
なんなんだ、この感じは。
ゆっくりとその正体を見やると、この間声をかけてきたあいつだった。
あれ、多分なんかの楽器だよな。そういや中二のあん時も大事そうになんか抱えて突っ立ってたな。それか?
そしてまた何がおこったのかわからないほど早い音を次々と吹き出すこいつ。……人間か?
風が柔らかくその場に漂っていて、そいつの髪が静かに揺れて見え隠れするその横顔に思わず目が奪われた。
一点も曇りのない見えない音を見守るその姿が、俺には神々しく美しく見えたのだ。
「や、べぇ」
ただただ顔がにやける。手の甲で口元を隠して、そのまま顔を手で覆った。
少しずつ高まる鼓動を静まるように言い聞かせ目をつぶる。鋭くなった耳からは水のようにあいつの音が流れ込んできた。
それは決して流れることのなく、自分の胸の底に溜まっていく。こんな感覚いつぶりだ。
体を起こして奥の方にいた俺に気づいていねえそいつの背後に回る。
「只野」