溺れる。
□存在
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小学二年生のとき、家の隣に引っ越して来たのが彼だった。
宮地清志というその少年は二つ上とあってか、瞬く間に兄弟のいない私の兄代わりとして親しく接してくれた。
とても優しい優しいお兄ちゃん。
仲間想いで、一緒に遊ぶ他の子のことも、勿論私のこともいつもにこやかに楽しく遊んでくれた。
「夕南、寒くないか」
冬は毎日手をつないで学校に行く。「おはよう」の次はいつもそう言って暖かい手袋とともに私の手を包み込んで歩くのだ。
「きよにい大好き」
小学校時代の私の口癖はいつもこれだった。彼も嬉しそうに「俺も」と応えてくれていた。
彼が中学に上がってもお隣さんという権限で休日はあそびに行っていた。中学から始めたらしいバスケも練習、試合に関わらず、時間が作れる時は見に行った。
小学生が何故ここに。よく他の生徒にそんな目で見られた。先生には毎回許可を得ていたが、煙たがれることもよくあった。
「あんた宮地くんのなんなのよ」
背も伸びて、顔は元々整っていたし、運動も勉強も良くできる。努力マンで王子様みたいな彼はよくモテた。
ファンクラブがあったとかそんな話まで聞いたことがある。私が小学六年生、彼が中学二年生になる頃には来る度に年上のお姉様方に突っかかられることもしょっちゅうになった。
「妹みたいなものです」
言い訳、もとい言い逃れの言葉はいつもこう言うしかなかった。自分の心がそう言う度に痛みが走っても知らない振りをしていた。
隣の家の妹。それが私のポジションだった。