科学者の持論
□第拾話
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「おはよ、月酒さん!」
「あ、井上さんやん、おはよ。
ウチのことは優希でええよ」
「月酒!アンタ頭いいんじゃん!今度勉強教えてよ!」
「ほへ?」
竜貴に背を押されて見たのは、一学年一学期末期末考査上位成績者の名簿だった。
「ありゃ、1位取られてしもたなぁ」
「は!?2位で十分でしょ!
てかアンタ、ちょっとは驚かないの!?」
「んぁー、ハハハ」
笑って誤魔化し、彼女は笑みを浮かべる。
「せやけど、井上さんもランキング高いやん?」
「織姫はいつも何だかんだ言って点数いいの!
一番驚くべきはアンタよ!!」
「何で?」
「見るからに勉強してなさそうじゃん!!」
「・・・・・・」
†
「・・・えらいええニオイせん?黒蝣はん」
〔・・・そうだな〕
「虚と・・・せやな、“餌”のニオイやろか?ええニオイやわぁ・・・」
底冷えするような目で空を睨み、ヘッドホンを外す。
「・・・」
〔優希、馬鹿なことを考えるなよ〕
「なんのことでっしゃろな〜」
ヘラヘラと笑い、ヘッドホンを付け直した。
しかし、黒蝣は優希の顔色を見て鳥肌を立てる。
〔お、おい・・・?〕
「フンフンフ〜ン♪」
〔い、家に帰るのではなかったのか・・・?〕
「フフフフ〜ン」
〔優希・・・?〕
「・・・・・・」
す、と優希が身を翻した途端、頭上から巨大な何かが降ってきた。
〔何!?〕
「あぁホラ、“餌”に寄って来おったわ、虚共が・・・」
優希に気を取られて気付かなかった所為もあり、虚の出現に驚きを隠せない。
「ウチんとこ来たんは間違いやったなぁ、ん?
・・・黒崎君やら、あの石田やらいう男の子の方行ったらまだマシやったろうになぁ」
ぱんっ
酷く淡白な音がしたかと思えば、彼女の後ろにいた虚が“内部から破裂”した。
「・・・これは、荒れるやろな。
ほな、行こか」
〔ど、何処へ〕
「ん?せやねぇ・・・禿エロ下駄クソジジイんとこ行こか思てたけど、予定変更してそこいらブラブラしよか」
〔・・・〕
浦原の扱いがどんどんと酷くなっていくのはさておき、彼女の行動に不安を隠せない黒蝣。
優希が考えることが手に取るように分かる分、不安も大きいのだった。
†
「〜〜♪〜〜♪」
パンッ!
「フンフフフフンのフ〜ン♪」
ドンッ!
「え〜んやぁ〜こ〜らった〜ふふ〜のふ〜〜ん」
グシャッ
「そいやっそいやっ」
べシィ!!
死屍累々
優希が歩けば背後には虚の消え行くその様が積み重なってゆく。
「おやァ?優希サンじゃないっスかぁ〜」
「・・・」
「あいだっ!な、なんで蹴るんスか!?」
「いやぁ〜、ええ天気やわぁ〜」
「う゛っ!?痛い、痛いですって!!!」
「・・・なんで、昨日の今日で名前呼びやねんこのエロオヤジ」
「き、聞こえてたんスね・・・」
体中を蹴りまわされ、若干ボロボロになった浦原は目に涙を滲ませながら苦笑する。
「当たり前やろ?アンタは臭いからな」
「えぇっ!?そ、そんなニオイします・・・?」
「するする。
・・・で?アンタは何しに来たん?」
「あぁ、それh」
「へぇ〜、お迎えご苦労さん」
「ちょ、アタシまだ何も言ってないっスよ!?」
「興味ないわ」
「じゃ、何で聞いたんスか!」
「聞いたらな可哀想や思てな」
「酷い!!」
がぁがぁと五月蠅い浦原を正面から見つめ、優希は尋ねた。
原因は“餌”か、と。
「・・・物知りっスねぇ。その通りっスよ」
「やっぱりな。
これやさかい、滅却師は嫌いなんや」
「何でもお見通し、ですか?」
鋭い視線で問いかけてくる浦原に、優希は肩を竦める。
「“何でも”知ってるわけやない。・・・ただ、現時点でアンタのしたコトやら、滅却師やら、オレンジ頭やらのことやったら知っとるよ」
「・・・成る程」
話に飽きたのか、別に何かあるのかは不明だが、優希はポケットからチュッ○チャッ○スを取り出し、口に放り込んだ。
「ほなね。ウチは“あの子ら”に用はないさかい行かせてもらうわ」
「・・・近々店に来てくださいね?お安くしますんで」
「フン、考えとくわ」
どこからか虚の叫び声が響くと同時に、彼女は姿を消した。
「・・・じっくり、お話しましょうね、優希サン」
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