真実の愛

□序章
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「どうじゃな、ルイス?緊張しておるかね?」

「特には」


入学式前日、ルイスはダンブルドアとお茶会を開いていた。


「魔法界の入学式に興味はあるが、だからといって緊張はない」


いかにも気怠げに言ったルイスは、一口紅茶をすすった。


「そのことなのじゃがの、明日、ルイスにはホグワーツ特急に乗ってもらおうと思うのじゃ」

「何故?」

「あの列車は特別での。これといった魔法は掛かっておらぬが、あそこでは初めての友人ができる素晴らしい場所じゃ」

「ここで待ち伏せて合流するという手もあると思うのだが」

「これがチケットじゃ」

「聞かないか」


ニコニコと差し出されたチケットを受け取り、ルイスは眉をひそめた。


「九と四分の三番線?キングズ・クロス駅の?」

「おおそうじゃ、プラットホームの"9"と"10"の間の壁から行くことが出来る。

 行きはセブルスに送ってもらうと良いじゃろう」

「彼は寮監だろう?一人でも行ける。いくらなんでも使いすぎじゃないのか」

「何もしていないよりはマシじゃろうて」

「酷な人だな、貴方は」


サラリと事情を知ることとそれを良く思っていないことを滲ませ、ルイスはダンブルドアと視線を絡ませた。


「記憶を見たのか?」

「近いうちにそれを聞かれるじゃろうと思っておった。

 答えは否じゃ」

「何故?」

「どうしても必要になったその時まで、とっておこうと思ったのじゃ」

「好きにするがいいさ」


肩を竦め、ルイスはカップを空けた。


「ルイス」

「何だ」

「また、時々お茶をしに来てくれるかね?」


立ち上がったルイスは彼に背を向け、扉に向った。


「気が向いたらな」















教師陣のピリピリとした雰囲気から離れ、ルイスは大イカがゆったりと泳いでいる湖面に腰を降ろした。


「カイノス」

[何だ]


ルイスの影から現れた鷲を肩に乗せ、遠い湖の向こうを眺めた。


「騒がしくなるのだろうなあ」

[だろうな]

「ここは嫌いじゃない。だが・・・」

[何を恐れている]

「恐れている・・・?そうかもしれんな。モリスのところにも行っていない。下手をすると・・・」


顔を膝に埋めるルイスに、カイノスはそわそわと体を揺らした。

出会って約二ヶ月。

大人びた主人が初めて見せる弱った姿に、戸惑いを隠せない。


「・・・何をしている」


背後から掛かった声に、ルイスは勢いよく振り向いた。


「教授こそ一体何を?お忙しいのでは」

「校長から列車の件を聞いた。明朝10時半、我輩の部屋に来なさい。

 それと、明日から君はホグワーツの生徒だ。校則を破れば即刻減点と罰則を科す。心しておくように」

「・・・はい」


さらりとローブを翻したスネイプは肩越しにルイスを見た。


「それと、前にも言ったとは思うが、そう不用意に湖に近付かぬことだ。何かあったところで知りませんぞ」

「肝に銘じておきます」


フンと鼻を鳴らして去って行ったスネイプに、ルイスは口角を上げた。


「甘い男め。仕舞いに禿げるぞ」


立ち上がって泥を払ったルイスは、軽く伸びをしてスネイプの去って行った方をチラリと見た。


「私に向けるだけの優しさがあるなら自分にもそれを向ければよいものを」


誰も見ていないことを確認し、ルイスは動物もどきに変身し森に向った。

穏やかに過ごした日々に別れを告げ、恐ろしく賑やかになるだろう学生生活に備えるために。















コンコンコン───



「スネイプ教授。ルイス-ラオドールです」


その夜、夕食後にルイスは薬学の教科書とメモを手にスネイプの部屋を訪れた。何度かノックを繰り返しても反応がなく、出かけているのかと踵を返したとき、ゴトリと重い音がして足を止めた。

ドアノブに手をかけ鍵が掛かっていないことを確認し、少しだけ開けた扉の隙間から身を滑り込ませ、スネイプの部屋に滑り込んだ。

ホルマリンが並んだ棚の側に転がった瓶を見つけ、漂うアルコール臭にひくりと頬を引きつらせる。


「・・・教授?」


机に突っ伏しているスネイプを見つけ、アルコール臭の元が彼であることを知り意外そうな顔をする。


「入学式前夜に酔いつぶれるほど飲むような人間だったとは意外だ」


瓶を拾って机に置き、スネイプの顔を覆い隠す前髪を払ったその瞬間、酷く覚えのある痛みに倒れこんだ。


「やめっ」



リン──────















「リリー!」


「穢れた血!」


「許してくれ!」



















「何なりと」
















指先に感覚が戻るのを待ち、ゆっくりと立ち上がった。

穏やかな表情だった。

ルイスがゆるりと手を振れば、寝室へと繋がる扉が開かれ、スネイプの体がゆっくりと浮遊し、寝室へと消える。

それを追ったルイスは魔法でスネイプの服の胸元を緩め、シーツを掛けて明かりを消し、部屋を出て鍵を掛けた。

隣の自室に戻り、ルイスは強く壁を殴った。


「クソッ」


壁に何度も頭を打ち付け、強く目を瞑る。


「・・・・・・ハリー-ポッター・・・生き残った奇跡の男の子」


ルイスの目に映る決意の色がランプの光を反射して輝いた。


「リリーの息子。護るべき希望の光。・・・私が───」

















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