科学者の持論
□第玖話
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[浦原商店]から遠く離れた所にある自動販売機でおしるこのボタンを連打する優希。
適当に歩きながら、プルタブを開ける。
「ん〜、美味い!」
〔糖尿病になるぞ〕
「なったらなった。ならへんように気は使ってんねんやさかい、煩く言わへんの」
ちびりちびりと甘ったるい液体を嚥下し、溜息を吐いた。
「ほんま・・・何やねん」
〔何がだ〕
「あの浦原とかゆーボケのこっちゃ」
〔・・・〕
「人のこと待ち伏せてとっ捕まえて、なんや探っとるんかと思たら、聞いてくるんは阿呆みたいなどーでもええことばっかや」
〔聞きたいことは数多くあるが、何から聞いたら良いのか図りかねている、といった所か〕
「せやなぁ」
ガコン
ゴミ箱に開いた缶を投げ込み、新しい缶を開けた。
「・・・また、面倒臭いこと起こりそうやしなぁ」
チラリと、遠くの方を見て溜息を吐いた優希に、黒蝣は掛ける言葉を探したが、一つも浮かばなかった。
「んん〜、この感じは前に言うとった滅却師?」
〔だろうな〕
「・・・ハァ。はよ帰って寝よ。
明日、期末テストの成績発表されるらしいし」
〔上位に入っていなければ分かっているな?〕
「分かってますて;」
ヘッドホンを付け、鼻歌を歌い始める優希に、黒蝣は古き友の姿を思い浮かべる。
〔(本当にこれで良かったのか?ルナ・・・。
我には分からぬ・・・お前の考えることは、いつも。
これで良かったのか・・・?
お前は、いつもそうだ。
語るべきことを一つも語らず、独りで何もかも背負い込み、行方を眩ましたかと思えば・・・当然のようにそこにある。
・・・お前は我にとっても最善の選択をしたというのに、この様は何だ?
我は後悔している。
なぁ、ルナよ。
お前にはこの世界、一体どのように見えるのだ・・・?)〕
「―――ん。――ぅさん!
聞いとるんか、この靴墨羽虫」
〔・・・殺されたいようだな、優希?〕
黒蝣の低い声に、優希は慌てて謝った。
「いやぁ、ボーッとしてはったから、何か悩んでんのかなぁ・・・て」
ポリポリと頬を掻く優希に、黒蝣は溜息を吐いた。
何を自分はくよくよと悩んでいるのだろう。
今自分は、この優希を護り傍にいてやらねばならない。
悩む必要など、何処にもないというのに。
「・・・飲む?おしるこ」
あぁ、馬鹿馬鹿しい・・・。
〔そんな甘ったるいもの要らん。胸糞が悪くなる〕
「あ、今馬鹿にしたやろ!?
この偉大なおしるこ様に謝りぃ!」
〔フン、偉大な我に跪いて頼み込んだらやってやらんでもないぞ〕
「うわ、鬼畜やわぁ・・・」
ルナ、我にはお前の望みを叶える義務がある。
だが、いつか・・・
・・・いつか、お前と杯を交わしながらゆるりと語り合う機械が出来たなら。
その時は・・・腹を割って、思う存分思いのほどを我に話してくれないだろうか。
その時は、我もお前に話そう・・・
だから。
だから、せめてもう一度・・・
「黒蝣」
〔っ!・・・何だ?〕
「・・・寂しいんやったら、話し相手くらいはできるで?
ウチは姉さんのことなーんも知らんけど、少なくとも黒蝣さんのことくらい、ほんの少しは理解してるつもりやねんで?」
優しく
何処までも甘い笑みで、そんな事を言うお前が憎らしい。
だが・・・
〔・・・やはり、一本置いておけ〕
「あ、ほんとは飲みたかってんやな、おしるこ!
・・・あー、ごめん、全部飲んでしもた」
〔・・・〕
「ごめんって!ちゃんと買うさかい、怒らんといてや!?」
〔・・・もういい〕
「ちょっ、黒蝣さん!!」
こんな生活も、悪くはない・・・
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