薔薇には茨
□その女、落下
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『彼』は柄にもなく驚いていた。
急に、人(?)と思われる何かが降ってきたのだ、驚かないほうがオカシイ。
ソロリと椅子から立ち上がると、今しがた落下してきたナニカにゆっくりとにじり寄る。
よく見れば、木片の山からちょっぴりと、ヒトの足が覗いているではないか。
つまり、気配からしても、落ちてきたのは『ヒト』である。
ツンツン!!
そうっと指を伸ばして足をつつくと、ピクッと動いた。
(小生の『お客さん』じゃないみたいだねぇ・・・)
それではつまらない。
どうしようか・・・と『彼』が悩んでいると、木片の山からくぐもった声がした。
「―――――――――か」
「ん? 」
彼は木片に耳を近付けた。
「??」
「そこでぼ〜〜っと突っ立っているのなら、いい加減助けてくれないかい?」
「!!」
自分のものと酷似した声と体に、口調・・・
(・・・面白そうだねぇ〜♪)
ズポッ・・・
『彼』は『ヒト』の足を掴み、木片から引っこ抜いた。
出てきた人間に、『彼』の隠された瞳が見開かれる。
長く美しい顔を覆い隠すくらいに長い、銀の髪
黒のロングブーツ
袖の長い神父服に、葬儀の際の付人用コート
紫の帯を緩く巻き付け、耳にはピアスの代わりにイヤーカフ
黒く、長い爪
違うところなど、身長と体重、イヤーカフくらいだろう・・・
『ヒト』は少し荒い息を整え、口元に怪しい笑みを浮かべた。
「いやぁ、助けてくれてありがとう♪
流石の小生も死ぬかと思ったよ」
・・・一人称まで同じときた。
「君は・・・「待った」・・・」
『ヒト』は『彼』の言葉を遮り、早口に捲し立てる。
「聞きたいことは山程あるだろ〜?
大丈夫、ちゃんと答えるからさ、」
今は、無理
顔だけは見ないで、と言うと、その体から力が抜け、ピクリともしなくなった。
「・・・ヒ、ヒヒヒッ♪」
暫くそのままでいた『彼』の顔にニマァっと、誰かが見たなら悲鳴をあげて逃げ出しそうな笑みが浮かんだ。
「ヒヒッ、ヒッヒヒヒヒヒ・・・!
っといけない、血が上ってきたみたいだねぇ・・・グフッ」
そう呟き、抱きかたを変える。
所謂、『お姫様だっこ』というやつだ。
「ん?
君・・・本当に人間か〜い?」
先程にも感じた違和感。
それは、『ヒト』の軽さ、だった。
「・・・まぁ、今はイイよぉ・・・グフフ・・・
先ずは何処かに寝かせてあげなくちゃねぇ・・・」
軽く見渡し、無事な『棺』の蓋を開け、そっと『ヒト』を寝かす。
「ヒッヒッヒ・・・死なないでおくれよ?」
君は、小生の新しい『オモチャ』なんだからねぇ・・・
そう言い残し、『彼』は店の奥へと姿を消した。
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