宝を求めて

□依頼
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賑やかな町の一角で、大玉に乗るピエロがいた。





周りに集まるのは子供ばかりで、皆笑顔を浮かべている。






「さぁ、そこのお嬢サン♪お手を拝借☆」





目の前に居る少女の手を取り、ピエロは軽々と抱き上げた。




わああぁ!と歓声の声があがる中、ピエロは少し不安げな少女にニッコリと笑いかけた。





「しっかり掴まっていて下さいネ☆落としゃしませんカラ♪」





そう言うが早いか、ピエロは少女を片腕で抱き、空いた手で五つのリンゴを宙にばら撒き、ジャグリングを始めた。






「すっげーーーー!!!!」


「わたしも抱っこしてー!」





次第に大きくなる歓声に、立ち止まる脚が増えていく。






一層高くリンゴを放り投げたピエロは少女の脇に手を挟み、自分の肩に乗せた。





「さあ、よーく見ていて下さいネ〜☆」




パッと片足を上げたピエロは脚の間にリンゴを通したりとパフォーマンスを見せるが、不安定さはかけらも感じさせなかった。



落ちてきたリンゴを上げている足で柔らかく蹴り、ピエロは器用にも片足でジャグリングを始めた。





一旦リンゴを受け止めて少女を地面に降ろすと、ピエロは大玉から降りて何処からか風船を持ち出した。





「ハイご注目☆これ、何に見えマスか?」




「「「「フーセン!!」」」」



「せいか〜い☆ではこのフーセンを膨らませていきマース♪」






風船を口元に当てて空気を送り込む作業を繰り返せば、幾つものカラフルな風船が出来上がった。



それをポトリと地面に落とすと、ピエロは観客の目の前で数回手を打ち鳴らした。





─────フワリ






「「「「「「わああああああああああああーーーーーー!!」」」」」」






ガスでもなければなんでもないただの息で膨らませた風船が、一斉に空に浮かび上がった。





「何で何でー?」


「凄いよ!!」


「浮いてるー!」





はしゃぐ子供達にニヤリと笑い、ピエロは何もないところから浮かばせた風船と同じ数のカードを取り出した。



カードに描かれている絵柄は、真っ赤なリンゴ。



それを風船目掛けて投げつけ、全てに命中させた。





パァン!と派手な音を立てて割れた風船の中から出てきたのはリンゴ。



カードや風船の残骸もなく、重力を無視してゆっくりゆっくりと落ちてきたリンゴは子供達の手に。





「ワタシからのささやかなプレゼントデス☆」




子供達はリンゴを手に手に大喜び。



見せ付けられた手品に、遠めに見ていた大人達も口をあんぐりと開けてピエロを見つめていた。




「タネも仕掛けも御座いまセン♪」




そう言って胸元に手を当て、ペコリとお辞儀したピエロに歓声と拍手が送られる。



放られた金貨を集め、ピエロは姿を消した。


































コンコンコン





「鍵は開いとるよ」

「失礼します」




ドアを開けて入ってきたのは、黒いマーメイドドレスを身に着けた美しい女だった。


「先日連絡をさせて頂きました、月影と申します」

「ほう、君が噂の月影か。聞いてはいたが、美しいのう」

「お戯れを」


口ぶりは親しげに会話をする二人。



しかし、どちらの目も笑っていない。






ヒールを脱いで畳に上がった月影は、促されるまま座布団に正座した。




豆のような小さな男がお盆に二つの湯飲みと急須を持って現れ、ネテロに渡した。


「まあ、茶でも」

「頂きます」


淹れられた緑茶を口に含めば、程よい苦味と香ばしい香りが喉を抜ける。


「さて、依頼の件じゃが」

「はい」

「今年のハンター試験に出て欲しい」

「・・・と、言いますと?」


怪訝そうに眉を顰めるヘヨカに、ネテロは一枚の写真を渡した。



そこに写る男に、彼女は目を細めた。




髪を後ろに撫で付け、顔に化粧を施した珍妙な恰好をしたその男の笑みは陰湿でねちっこく、見るものに共通の嫌悪感を抱かせた。


「誰です?」

「奇術師ヒソカじゃ。前回のハンター試験で試験管を半殺しの目に合わせておる」

「・・・ほう」

「つまるところ、こやつの監視をして欲しいのじゃよ」





ハンター試験で試験管が受験者に殺されかけるなどという事件は、ハンター協会に悩みの種をこれでもかと撒き散らした。



そして今年。



悩みの種からの応募用紙があったのだ。





毎年毎年試験管を減らすような危険はなるべく、速やかに排除したいところ。




その役目に選ばれたのが、万屋月影だった。


「依頼内容は確認させて頂きましたが、何故私をご指名なされたのですか?」


私でなくとも適任は居るでしょうに、と言う彼女にネテロは否定する。


「君に頼むのが何より確実のようじゃからな」



万屋月影。



裏の業界で広く名を轟かせる正体不明の女。



頼まれた依頼はどんなものでもこなす代わりに、法外な金額の報酬を請求するということで有名だ。


更に、依頼人を選り好みするなどという噂もあり、気に入らない者は金を搾り取られた後、酷く惨いやり方で嬲り殺しにしたなど、様々な噂が飛び交っている。




それでも彼女に依頼の数が減らないのは、ひとえにその仕事振りにある。




彼女の辞書に「失敗」という言葉はない。




どんなに難しい依頼であろうと、彼女はそれを最短時間でこなしてしまう。



情報の提供を望めばどこよりも細かな情報が約束されるし、暗殺を頼めば後始末も完璧で、依頼者の安全は護られる。





彼女を見つけ出し依頼をすることだけでもかなりの難易度を要求されるのだが、流石はハンター協会会長である。



「報酬はハンターライセンスを最初から一ツ星の状態で発行するというのでどうかのう?」



ニコニコと食えない笑みを浮かべるネテロに、月影はその秀麗な眉を寄せた。



「依頼は本当にそれだけですか?」



殺人鬼一人の監視だけでハンターライセンス一ツ星とは、いささか大袈裟ではないだろうか。



「おお、流石じゃ。実はの─────」



依頼を全て聞き、彼女は頷いた。


「承知いたしました。これをもって私はその任務を引き受けることをここに誓います。

 書類による契約は致しません。全て口頭契約によるものとお考えください。

 内容は奇術師ヒソカの監視、並びにその他受験生並びに試験官の殺害防止と承りました。間違いありませんね?」

「問題ない」

「では、これにて契約完了とさせて頂きます。報酬は任務遂行後速やかにお支払い下さいませ。

 ・・・これは私的な質問なのですが、一つよろしいでしょうか?」

「何じゃ?」

「私は彼の殺人行為の“全て”を妨害すれば宜しいのですか?」


相変わらず冷たい光を宿す瞳は、確信めいた色をしていた。彼女はネテロが何と答えるか大方見当がついているのだろう。


「・・・“なるべく”で構わんよ」

「それでは幾らか“見せしめ”も必要ということで宜しいのですね?」

「そうとも言えるのう」



酷いお方だ、と彼女は目を細める。



そんな彼女にネテロハンターになるということはそういうことだと肩をすくませた。


「まあ、私は任務を遂行するだけです。くれぐれも、報酬の件をお忘れなきようご忠告申し上げます。

 では、これにて」





足音なく立ち去って行った彼女を見送り、ネテロは満足気な笑みを浮かべた。


「さて、かの有名なサーカス団の生き残りがどう働くか・・・見ものじゃな」


いつものとぼけた顔もそこにはなく、ギラリと煌めく目が三日月を象った。









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