哄笑クラウン

□不審者
1ページ/3ページ






ガタアァァァァン!




椅子が倒れ、ゆっくりと崩れ落ちる身体


白い長袖シャツに、だぼだぼのジーンズを身に着けた『最後の切り札』が、破れ去った


キラの勝ち誇った笑みを最後に映し、その眼は光を失った――――










「グスッ・・・ぅ・・・えっ・・・るぅ・・・!」


漫画『DEATHNOTE』を前に号泣する少女が一人。


否、もう少女と呼べるような歳ではないのだろうが・・・彼女は声を殺して泣き続けた。



「そんなに泣いてたら、オコゼになっちゃいますヨォ?」


「?!?!?!?!?!」



誰も居ない筈の部屋に響いた男の声に、少女はハッと顔を上げた。



「ここここ〜☆

 アナタの・・・後ろだぁぁぁ!」


「ヒッギャァァァァァ!!!」



何だかやけにじっとりとした何かを肩に感じ、とにかく叫びに叫ぶ。



「キャッヒャヒャヒャヒャ!!

 イ〜イ悲鳴を上げますネェww」



肩にある手を払い除けて振り向いた先には、背のたか〜い“ピエロ”


髪が赤と青と黄色に別れているけれど・・・信号か、信号なのか!


て、そんなことを考えている場合じゃなーい!


すかさず携帯電話を手にして110番し・・・



「ちょっ、何でできないのよぉぉ!

 圏外だぁ?や、今こそ必要でしょうが!

 カモン電波!」


絶賛大パニック状態である。






ス・・・





「・・・え?」


突然手から消えた携帯電話。

呆然と手を見つめていると、心底楽しそうな男の声が彼女に降り注いだ。


「繋がるワケないじゃないですか♪

 本当にアナタは面白いヒトだ!」


「・・・」



分かったことその一、携帯電話はピエロ野郎に奪われた。

その二、コイツ・・・めちゃちゃ腹が立つ!!


「まぁまぁそんなに怒らないで下さい☆」


「あんた、頭おかしいんじゃない?」


彼女の動揺と怒りを表すこれ以上の言葉が見つからずに放った言葉に、ピエロは腹を抱えて笑いだした。


「ブッヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!

 アナタ、やっぱり最高ですよ!

 フッハハハハハハハハハハハハハ!」


「・・・」



自分を思いきりバカにされた上に大笑いされ、彼女の怒りは上限を越え、動揺が消え去った。


少し眼を細め、ピエロの観察・対応を図る。


赤と黄色と青、信号色の髪。


肌は真っ白だが・・・これはピエロの化粧だろう。


右目の下には大きな涙の形をしたペイント。


仮面で眼の回りを隠しているくせに、よく見える。

・・・コイツの場合、笑い泣きによる涙だろうな。


赤鼻が付いていない分、筋の通った鼻が目立っている。


・・・残念なイケメンというやつだな、うん。



「クククッ・・・失礼なおヒトですネェww」


「っ」


ズイ、と顔を覗き込まれ、彼女はその場に尻餅を付きそうになる・・・が、ピエロの長い腕が彼女の腰を支え、来る筈の痛みから免れた。


「だぁい丈夫ですか〜?」


・・・一々癪に触る話し方をする奴だ。


「放して!

 大体、あんた何者!?

 家宅侵入罪で現行犯逮捕だわど畜生!」


「まるで尻尾を踏まれた猫ですネ♪」


にゃんにゃん、なんて言いながら猫のように手を丸めたピエロに、頭の静脈が何本かいった。


「し、つ、も、ん、に、答えろやぁぁ!」




ドスッ!!!



「・・・(泣)」


彼女自慢の右ストレートは当たった。

鳩尾付近に思い切り。


しかし・・・


ピエロの身体は・・・腹筋は、やけに固かったのだ。



「アララ、イタイでしょう?」


「触んな!手がもげる!

 あんた意味不明!突然部屋に現れるしピエロだし腹筋固いし!

 何なのさ!」


涙眼で睨んでくる少女を前に、ピエロはニヤリと笑う。


「あぁ、ワタシですか?

 ワタシは哄笑のクラウンと呼ばれています♪

 今日からアナタの足長おじさんです☆」


「ハイィ?!」










哄笑のクラウン


ピエロの格好をした、道化師。


その者の名を知るものは誰一人としておらず、通り名だけが世を渡る。


その通り名でさえ知るものは限られており、知るものは・・・皆彼を恐れる。


世界に存在するものをただの玩具としか見ず、より興味を引いた者、より強い者に力を与え、泳がせる。


それを見ては嘲笑じみた哄笑をする。


その癖、興味を失なえば・・・与えられた力の代償に、命を奪う。


それが、哄笑のクラウン・・・






「なぁ〜んて、言われています♪」


「帰れ。今すぐ帰れ。

 厄介だ迷惑だ私の何が面白い帰れ帰れ帰れ!」


彼の長ったらしい自己紹介(?)を聞いた彼女は、手近にある物を投げつけながら叫ぶ。


「面白いですヨォ?

 これまでで最高ですww」


かなりの量をかなりの速さで投げているのに、全部かわされる。


「チッ・・・」


勝者、ピエロ

彼女のそう多くない体力は、ピエロを前に呆気なく尽きた。


「もう終わりですカァ?超一方的ドッヂボール」


「ハァ、ハァ、だ・・・まれ!」


「そんなに息を荒げて・・・誘ってるんですか?」


「死ね!」


「おおっと」


ピエロにコンパスを投げつけながらふと思う。


な、ん、で、こうなった?



「あーもー疲れたマジあり得んわその体力。

 そんな体力有るんだったらこんな所で油打ってないで世のため人のために働いて来いクソッタレ・・・ハァ。


 ・・・なに笑ってんだクソピエロ」


「クッ・・・いやぁ、アナタ面白すぎます。

 惚れました、嫁になってクダサイ♪」


「寄るな散れ消えろクソピエロ!

 ぬぁにが嫁だ誰がなるか願い下げだクソ野郎が!

 私の物は私の物!

 よって、私は私の物なの!」


「とんだジャイアニズムですねww」


ジャイアン知っているのか・・・という意外な発見に舌打ちし、彼女はピエロを睨み付けた。


「マジ帰れあんた何したいわけ?」


「正確に言うとナニです」


「もーいーさっさと死ねクズ」



勝手に人の椅子に座って(無駄に)長い足を組むピエロを傍目に、ベッドに腰掛ける。


「何だかんだ言って乗り気じゃないですかw」


「っ!お前が一つしかない椅子を独占したからだろぉがぁぁ!!」


「アハハハハハ!」


「・・・ハァ〜!」


折角治まっていた偏頭痛がぶり返し、こめかみに手をやる。




ガラガラガラ〜



ピタッ




「・・・」


椅子に乗ったまま此方に移動してきたピエロに一言言ってやろうと口を開くと、唇に人差し指を宛てられ、話すに話せない。



「そうですネェ・・・ワタシのことはクラウンとでもお呼びください♪

 ワタシの目的ですが」



アナタに、ワタシの玩具になって貰おうかと思いまして



ニンマリと凶悪な笑みを浮かべるピエロに、彼女は眉間にシワを寄せた。


「対価は?」


「ハ?」



「私に玩具になって欲しいんでしょ?

 何、ただでやってもらえると思ってるわけ?

 むしが良すぎるでしょ、ソレ」


呆気に取られるピエロ。


先程の笑みは消えている。



「・・・イヤじゃ、ないんですか?」


「あん?何で嫌がらなきゃダメなのさ?

 あんた、哄笑のクラウン?とかいう権力者なんでしょ?

 名前のダサさは無視として、そんなあんた直々にだよ?こんな詰まんない女のとこ来てさ、玩具になれって言うんだよ?」



こんなに面白いことって、そうそうないでしょ?



「対価にもよるけどね♪」


そう言って、ピエロ顔負けの笑みを浮かべた。

口が耳元まで割けたような、そんな笑みを・・・。


「・・・クスッ。

 流石、ワタシの選んだヒトだ。

 対価は、アナタに最高の称号を、アナタの世界で不自由ない生活を、保証致しましょう♪

 只し、アナタにもそれなりの対価は払っていただきます」




「え゛」








次へ
前の章へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ