貴方が、居るから

□捜査
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   《ねぇ・・・・・・・・か》



 あぁ・・・まただ。

 遠くにあの子が見える。

 寂しげに宙を見上げ、誰かに呼び掛けている。




   「こんにちは」


   《・・・あれ、また》


   「はい、また会いましたね」




 正直、子供は苦手だ。


 感情の起伏が激しく頑固。


 そのくせ直ぐに泣くし、体は脆い。


 ・・・こんなことを言っていたらワタリに怒られそうだ。


 ワイミーズの子供達はまだましなのだが。


 しかし・・・この子は・・・一体、どうしたら良いのだろうか・・・?




   《聞いてない・・・》


   「?」


   《名前・・・》


   「あぁ・・・Lです。

    貴方は?」


   《・・・またそれ》



 じぃっと見つられるが、気にしない。

 此方は名乗ったのだ。

 この子にも名乗ってもらう。



   「はい、勿論です。

    前回はちゃんと聞けませんでしたから」


   《言った・・・》


   「ちゃんとしたのを」


   《・・・・・・無い。

    名前、忘れた。

    呼ばれない。呼ぶの、欠陥品》


 だから、好きに呼んでくれて構わない。


 そう言うと、子供は何処か凪いだ瞳で宙を見上げた。



   《L、此所どこ、思う》


 この子の話し方は特徴的だ。

 修飾語が極端に少なすぎる。



   「夢だと認識していますが?」


   《そ》



 今回はこの夢が直ぐに醒めることはなさそうだ。


 さて・・・困った。


 どうしたら良いのかさっぱり分からない。




   《・・・L》


   「はい」


   《・・・》


   「何ですか?」



 呼び掛けたくせに何も言わない子供に焦れて、先を促す。



   《あり、がと》


   「!?」



 今、『ありがとう』と聞こえた気がするのだが・・・?



   《話すの、久し振り》


   「?

    ご両親とは話さないのですか?」


   《・・・うん》


   「それはまた何故?」


 好奇心が擽られる。



   《声、無い。

    此所、変》


   「・・・は?」



 声が無い・・・とは、話せない、ということだろうか・・・?


 しかし、今自分は目の前の子供と話している。

 ・・・夢、だからだろうか。



   《目と、声、無い。

    ・・・L、よく見えない》


 目も・・・?

 此方からははっきり見えているのに・・・



   《・・・呼ばれてる。

    行くの、や・・・》




 呼ばれている?

 今回、覚醒するような感覚はないが・・・


 否、この子が呼ばれているのか。



 なら、先に聞いておきたかったことを聞いておこう。



   「ならもう少し此所にいましょう。

    幾つか質問しても?」



 少しだけ、子供が笑った気がした。




   《いいよ》


   「ズバリ、貴方は生物学上、女ですか、男ですか」


   《・・・失礼》


   「分かりにくい貴方が悪い」


 クスリと、自分の口が弧を描くのを感じた。

 この子と話すのが、楽しい・・・?



   《女。

    多分14歳》


   「多分って何ですか、多分って」


   《じゃぁ、14歳》


 じゃぁって・・・


   「小さいですね」


 未熟児だろうか・・・それとも病気?

 身長が低すぎる。



   《うるさ・・・》


   「酷いですね」


 どこか不機嫌な彼女に、小さく吹き出す。

 前言撤回だ。


 私は結構子供好きならしい。



   「今、貴女は何処にいるんです?」


   《イギリス。ロンドン》


   「!!ロンドンですって?!」


 コクリと頷く彼女・・・


 危険だ。


 あのファイルに、この子の写真は無かった。


 自分の推理が正しければ・・・狙われる。



   《・・・ねぇ、L》


   「はい?」


   《・・・》


   「?」


   《またね》




 グニャリ




 白い世界が歪み、彼女が霧散していく。


   「!!」



 気付けば、腕を伸ばしていた。

 まるで、小さな彼女を引き留めるかのように・・・



   《L・・・・・・ぅ》



 何て言っているんですか?

 大きい声で言ってくれなければ分かりません。


   《・・・ね》


   「・・・っ、待っています!

    待っていますから!」





   《ありがとう、L》





   「あ・・・」






 ブツリ・・・




§


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