科学者の持論

□第弐話
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尸魂界全土から集められた四十人の賢者と六人の裁判官で構成される、 尸魂界の最高司法機関。

尸魂界・現世を問わず死神の犯した罪咎は全てここで裁かれ、 その裁定の執行に武力が必要と判断されれば、 隠密機動・鬼道衆・護廷十三隊等の各実行部隊に指令が下される。

そして、一度下った裁定にはたとえ隊長格といえど異を唱えることは許されない。



そんな、四十六室により、一人の女死神に命が下された。






「坂井ルナ、是より特別任務を言い渡す」


「はい」


「尸魂界を存続の危機に陥らせた坂井聖也を暗殺せよ」


「・・・」


「返事は」


「・・・御意」














それは、まだ彼女の体が老い、家族も居た頃の話である。



彼女の父、坂井聖也は尸魂界一の科学者であり、頭脳明晰な男として知られていた。




そんな彼は、ある時尸魂界の在り方に疑問を持った。


・・・否、持ってしまった。



死神の、魂の扱い方


部下を犠牲にすることになんら疑問さえ抱かぬ者達




死神たる我等がそんなことでいいのだろうか・・・?


虚達とさえ、分かり合えるのではないのか・・・?



そんな疑問が彼を罪人の道へと歩ませた・・・

















「父様・・・お止めください!」




屋敷の自室で父親が何をしているのか気付いたルナは、勿論説得した。





「ルナ、お前は黙っておれ」


「父様!」


「ハァ・・・ルナ」


「はい・・・」


「すまん」


「父様!?っ・・・」



後頭部に裏拳をくらい、彼女は意識を飛ばした。



「・・・許せルナ。

 誰かがやらねばならんのだ・・・」














「――――!!

 ―――様!!」


「・・・うぅ・・・


 父・・・様・・・?」


「お起きくださいませ!ルナ様!聖也様が・・・!」


「っ!何があった!父上は・・・!!」




飛び起きれば、少し遠くで何かの爆発音が轟いた。




「・・・まさか」


ジトリと滲む冷や汗を拭い、話を聞く前に屋敷を飛び出した。




「父様・・・!!」


爆発が起きた所に着いたルナ。



彼女の目に映ったのは、変わり果てた尸魂界の姿だった。



慌てて父の霊圧を探れば、近くに大勢の死神の霊圧、そして中心に父のものを見つけた。




「父様・・・!」





すぐさま駆けつければ、捕えられている父の姿。



「っ!

 退け!父様、父様・・・!」



人前では決して『父様』とは呼ばぬ娘の取り乱した姿に、聖也は静かに首を振った。



群れる人だかりに容赦なく霊圧をぶつけ、父に走り寄る。



「父様・・・何故こんなことを・・・何故・・・!」


「・・・お前にはまだ分からんよ」



次の瞬間には鬼道で身動きを封じられ、ルナはもがいた。




「父様!それはどういうことですか!!


 おのれ小童共!汚い手で私の父に触れるな!!離せ!」



「ルナ・・・後は頼んだぞ」


「父様ぁ!!

 っ離せと言っているだろうが!」




連れて行かれる父を追おうとすればする程、より多くの死神により動きを封じられる。




「・・・退けと、言っているのが聞こえんのか」



ユラリと隊長でもない一介の死神が、隊長格並みの、それでいてとてつもなく禍々しい霊圧を放つ姿に、何人かが怯んだ。



「ルナ様!

 落ち着いてくださいませ・・・!

 今此処で行動を起こせば、聖也様のお心遣いが無駄になってしまいます!」



「玉葉・・・?」



屋敷の中でも特別仲の良い玉葉に止められ、ルナの霊圧が嘘のように消え去った。



「ルナ様、一旦屋敷へ戻りましょう・・・?」


「・・・そう、だな。先程は失礼をした。

 何もせぬ故、離してはもらえんだろうか・・・?」



先程の怒れ狂う姿と一変し落ち着いた姿に、束縛を解く。




「ご同行願おうか?」



ズイと出てきた大柄な死神達を鼻で笑い、彼女は言った。



「貴様等・・・私を誰だと思っている?」



霊圧ではない何かを感じ取り、何人かが倒れた。



「我が名は坂井ルナ。


 ・・・知らぬものはおるまい?


 それ程までに私を捕えたくば、霊王を相手にすると思って掛かって来い。


 お相手致そう」



不安そうにしている玉葉を背に庇い言い放つ姿は神々しくもあり黙り込んだ死神達。



「ふざけるなよ!お前のような三下が霊王様を口に出すとは恥知らずな!!」



それさえ感じ取ることが出来なかった者が彼女に斬りかかるが、誰かが止めに入った。



「お許しください、坂井殿」


「あぁ、朽木か。・・・成長したものだな」


「はい、その節はお世話になりました・・・」


「六の文字、そなたにこそ相応しかろうて」


「・・・!」


「いずれまた宴にでも誘ってくれ」


「はい!」




駆けつけたらしい六番隊隊長とのなんとも場違いな会話に、彼女を知らぬ者は首を傾げた。



貴族で名の知れる朽木家頭首であり若くして六番隊隊長である彼の出現に、冷や汗タラタラである。



「私の名も落ちたものだな・・・」


「ルナ様が屋敷に篭りっぱなしだからですよ!

 こうなるから私は何度もご忠告申し上げましたのに・・・!」



プンプンと怒れる彼女に苦笑しながら謝ると、ルナは崩壊した建物などに向き直った。



「父上も加減というものを知らない・・・」



何故父親がこんなことをしたのか

このままにしたほうが良いのではないか



思うことは沢山あったが、立場上放置する訳にもいかない。



ス、と彼女が壊れた場所に手を翳せば、そこは瞬く間に元の姿を取り戻した。





「「「「なっ・・・!?」」」」




「是で文句もなかろう?」


「あ、あいつ・・・何モンだよ・・・」


「口の程を弁えんか!」


「ヒッ!!」




容赦なく霊圧を放つ彼に苦笑いしつつ、彼女は口を開いた。



「まぁそうカッカするでない、朽木。玉葉の言う通りだ。

 知っている者もおろうが・・・霊王とは旧知の仲でな。


 この尸魂界を築いた者だ。

 ・・・我が父上がそれを壊すとは思わなんだが」




「ハッ!?

 あのジィさんが・・・!?アンタがあの・・・?」



「貴様等・・・無礼にも程g」


「まぁまぁ、良いではないか。ご理解頂けたかね?」


「は、はい・・・!」



何百年も篭っていたためにその姿を知るものは激減してしまったが、その名を知らぬ者など死神に居る筈がないのだ。





「さて、私は帰らせてもらうよ」



「お手を煩わせ、申し訳ありません」



「・・・仮にも隊長格が私に頭を下げるな。


 何度言わせれば分かるんだね?」


「しかし・・・」


「しかしもでももへったくれもあるものか。


 ・・・またアフロになりたいか?」



「・・・ご冗談を」



((((アフロ!?))))



慌てた様子など微塵も見せはしない彼だったが、如何せん目が泳いでいる。



「ククッ・・・では、またの機会にな。


 来い、玉葉」


「はい・・・てちょっ!?
 降ろしてください!!ルナ様!!」


「嫌だね。君を待っていると日が暮れる」


「そんな!!あんまりです!朽木殿!何とかしてください!!」


「・・・姉上の仰る通りです」


「裏切り者ぉぉぉぉ!」




軽く玉葉を担いだ彼女は朽木に笑いかけると、瞬歩で姿を消した。



「お、おい・・・見えたか・・・?」


「む、無理だ・・・速過ぎる」



「貴様等に視(み)えるほどあの方は遅くない。


 持ち場に戻れ!」


「「「「はいいぃぃぃ!!」」」」




「・・・つか、隊長さっき」


「あぁ、言ったな」


((((姉上って・・・))))

















父が意外にも軽い自宅謹慎で済んだことに胸を撫で下ろしたのはいつのことか・・・



四十六室の命を受けた彼女は自宅に向いつつ溜息を吐く。



アノ事件からもう数百年経ち、玉葉は自分の家庭を築き、今では新しくできた家族とひっそりと暮らしている。



それを、今更・・・




「考えても無駄だな。

 私には任務を遂行する道しかない。


 ・・・“あやつ”が、そう決めたのだから・・・」










ギィィィーーーー








寂れた音を立てる研究室の扉に一瞬ビクリと肩を揺らし、中に滑り込んだ。



「やっと来たか、ルナ」


「!」



回転椅子に腰掛け資料を読んでいた彼が振り向いた。



「私を殺せるのはお前しかおらん。


 ・・・何年も前に四十六室が決めたことだ」


「は・・・?

 
 では、今回の任務は・・・」




掠れた声に、彼は食えない笑みを浮かべた。



「そう、私があの時、娘以外に殺される気はないと言った。


 機が熟せば、そうなるよう仕向けろとな。


 お前は私の誇りだ。


 尸魂界という世界を築き上げたのだから」




滅多にない褒め言葉にただただ呆然とする彼女。





「お前は良くやった。


 しかし、よく考えろ。


 “あやつ”の作ったこの世界のルールはお前の望むものだったか?


 疑問を持ったことはないか?」



「・・・」



「沈黙は肯定だ。


 だからこそ、私は尸魂界に亀裂を入れた。


 お前は直してしまったようだが・・・まぁそれはいい」



「父・・・様・・・」



「もう、お前は刀と会話することが出来る筈だ。


 さぁ・・・恐れるな。抜け」



ゆらりと立ち上がった彼の顔には深い皺が刻み込まれていたが、その出で立ちに老いを感じさせるものはなく、重圧な霊圧が場を満たす。



「嫌・・・です」


「逃げるのか?昔のように?


 強い敵に立ち向かうことさえせずに、また大切な物を失うのか?」



「!!それは、母様のことを仰っている・・・のですか・・・?」


「そうだ!」



踏み込んできた彼から間合いを取りながら、耳に残る母の悲鳴を振り払う。



「無駄だ、ルナ!」



彼の白衣の袖から出て来た脇差にハッとした直後に聞こえた父の言葉と共に、彼女は広がる暗闇に身を落とした。





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