科学者の持論
□第拾弐話
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「ふぁ〜、ねむ〜」
シャワーを浴びて着替えを済ませて。いつも通りに家を出て彼女はヘッドホンをつけた。
〔優希〕
「おー、黒蝣さん。なんや久し振り?」
〔・・・大丈夫か?〕
「だいじょーぶだいじょーぶ。で、何?」
〔今後の予定を聞こうと思ってな〕
「せやねぇ・・・どうせ黒崎君と愉快な仲間達が朽木さん取り返しに行くぞー言うて尸魂界に乗り込むやろから、そん時について行こ思うよ」
〔それが何時になるか、分かるのか?〕
「分からへんけど、どーにかなるやろ」
〔どうにかって・・・お前・・・。それで?それまではどうする〕
「・・・せやねぇ。どうしよかねぇ」
ぼ〜っと空を見上げる彼女に、黒蝣は溜息を一つ吐いて姿を消した。
ぶらりぶらりと、学校を目指す。
「・・・ちょっとゆっくりするのも、ええなぁ」
†
「おい月酒、ちょっといいか?」
「・・・アカン、用事ある言うても、君は用事終わるの待ったりとかしそうやねぇ、黒崎君。
何?どないしたん」
「いや、下駄帽子・・・じゃない、浦原が、昨日お前が来て助けてくれたって」
「・・・チッ。何を言うとんのやあのボケ。
助けたんやない。応急処置しただけや」
「その・・・ありがとうな」
「・・・朽木さん」
「!」
放課後、人もまばらな教室でだらけていた優希に声をかけてきた一護。
机に肘を突いたまま一護を見上げ、優希は感情を含まない声で言った。
「ウチは忘れてへんよ、何もかも。
今日からあのエロおやじと特訓なんやて?まぁ、死なん程度に頑張りぃや」
「おう!」
「・・・ほな」
さっさと荷物をまとめ、彼女は教室を去った。
†
「ニャ〜」
「ん?」
校門を出たところに待ち構えていた黒猫を見つけるなり、頭がツキリと痛んだ。
それを無視して、優希は黒猫の元に行き、小さな体を抱き上げた。
「こないなとこで首輪も付けやんと、迷子か捨て子か、どっちやな?」
「ミャ〜」
「よしよし、おいでー」
そのままある程度学校から離れると、彼女は腕の中の猫に話し掛けた。
「なーんで、夜一さんがウチの学校ん前おったんかな?」
「何、お主これから暇じゃろ?」
「なんやろ、予定ものごっつう入れといたら良かったわ」
「付き合え」
「えぇ〜!それ、絶対めんどいことやろ?」
「暇なのじゃろう?」
「あんさんなぁ・・・」
「真っ直ぐじゃ」
「へいへい」
かなり面倒そうに、しかしどこか機嫌が良く見えるのは、大人しく彼女の腕の中にいる夜一のおかげか、それ以外か。
「ってここ、[浦原商店]やん!!!」
「そうだが?」
「ぬぅううう、何でまたここやねん!」
「そう言うな。まぁなんだ、上がって行け」
「いぃやぁやぁー!!」
「おやぁ?優希さんじゃないっスかぁ。さっきぶりっスね?」
「〜〜〜〜〜〜〜!夜一さん、悪いけどウチめっちゃ大事な用事思い出したさかい、帰るわ。ほな」
「良いが、明日またここに来るのじゃぞ?」
「何故にッ!?」
「本題があるからじゃ。起きたらすぐここに来ること。よいな?」
「・・・」
「よ い な ?」
「あい」
決して夜一の迫力に負けたわけではないが、悲しいことに断る理由もなく渋々頷いた。
暇人ほど面倒事に巻き込まれるものはないなと思いつつ、彼女は家に帰った。
†
家に着くなりあちこちの引き出しを漁り、なにやら作業をしている優希。
それを静かに見つめる黒蝣の目があるが、今の彼女には何者の干渉も許されず、自分の世界にドップリと浸かり込んでいた。
「やっぱ、ウチも準備せなアカン思うんよ」
〔ほう?〕
「アッチ行って、死んでもうたら元も子もないし」
眼鏡を外して目頭を押さえ、優希は呟いた。
「姉さんて、この眼鏡してて疲れんかったんかいな?」
〔どうだろうな。特には何も言っていなかったが〕
「めっちゃ目ぇ疲れるわぁ・・・」
〔なら外すか?〕
「いや、それもちょっとねぇ」
暫く揉むと、再び眼鏡をかける。
「まだ、外す気はないよ」
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