科学者の持論
□第拾参話
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夜一が織姫を怒鳴る声を傍らに、優希は土煙のその向こうをじっと見つめていた。
「・・・ふうん」
興味深げに目を細めた彼女の隣を一護が走り抜けて行った。
「ば・・・ッ、莫迦者!!迂闊にそちらへ近付くな!!死ぬぞ!!」
一護が怪訝そうな表情で振り向いたその瞬間、轟音を立てて背の高い壁が辺りを囲んだ。
「・・・久す振りだなあ・・・通廷証もなすにごの瀞霊門をくぐろうどすだ奴は・・・。
久々のオラの客だ、もてなすど小僧!」
言うなり斧を振り下ろした大男に、雨竜たちの顔に驚きの色が映った。
「でっかいなあ!えらい立派な体して!」
「一体何物なんだ・・・?」
呆然と呟く雨竜に、夜一の冷静な声が答えた。
―――四大瀞霊門西門、『白道門』の番人、兕丹坊であると。
作戦を立て直そうと一護を呼ぼうとした夜一を遮るかのように飛び出していった井上と茶渡に、優希は苦笑する。
その友情と覚悟の、なんと生温いことか
怒りにも似た感情を持って、優希は彼等を見つめた。
兕丹坊も斧で壁を作られ阻まれた三人は驚きに目を見開いた。
「お前たづ、行儀が良ぐねえな。さでは田舎もんだべ?
いいが?都会にはルールっでもんがあんだ。
ひどづ、外から帰っだら手え洗う。
ふだづ、ゆがに落ぢだもんは食わね。
みっづ、決闘する時は、一人ずつ」
「ああ、でっかいの、えらいすまんかったなあ!ごめんやで!この二人はウチがよー見とるさかいに、ちゃちゃっとやったって!」
壁に穴を開けて一護を助けるだの一緒に戦うだのと言っている二人を引きすって壁から離した優希は、壁の前に立ち、溜息を吐いた。
「あのでっかいのんの言うとおりやで、お二人さん。何を熱うなっとるんか知らんけど、頭冷やしぃ。
ここで助けに入るんは、黒崎君を信用してない、ゆーこっちゃ。それは戦士への侮辱や。
ウチらはここでのんびり待ちながら、周囲への警戒をしつつどうやって朽木さんを助けるか考えときゃええ。
もし、それすらできんのやったら・・・ウチを倒してから物言いよし」
ギロ、と冷たい目で睨まれた二人は動きを止めた。
・・・否、動けなかった。
首筋に刀を突きつけられているかのような鋭い殺気が、彼等の足を地に縫い付けていた。
「・・・ま、月酒の言うとおり、井上、オマエとチャド、そこで何もしねーでじっとしててくんねーか?」
「え・・・」
織姫や石田の反対に、一護は困ったように息を吐いた。
「・・・やれるのか」
「多分な」
壁の向こうに声を投げた茶渡に、あいあまいな、それでいてどこか確信めいた返答に、優希はニッと口角を上げた。
「多分って何だ多分って!わかってるのか!?」
「あー・・・もー・・・心配すんなっての。オマエ言ったろ、『この10日で君がどんな修行をしたか知らないが・・・』って。
いいこと教えてやるよ。
当初の予定じゃ俺は10日フルに使って死神の力を取り戻すことになってた。
だけど実際、しては5日で片付いた。
それじゃあとの5日間・・・俺が何をしていたのか?
戦ってたんだよ!
5日間昼も夜もブッ通しで!あのゲタ帽子と一対一でな!」
「そ・・・そうか!そこで戦闘の極意を教わっ・・・「いーや」え・・・?」
「あの人は何も教えちゃくれなかったさ。
けど・・・スタミナと度胸だけは・・・嫌でもついたぜ!」
一護の話は、一つの事実を驚くほど素直に告げていた。
彼に足りなかった、"経験"という名の実力。それを彼等は磨き続けていたのだ。荒く、そして丁寧に。
「な・・・何だ、お前・・・!?」
「・・・こっちが構える前に斬りかかるのは―――礼儀知らずって言わねえのか?」
兕丹坊の一撃を軽々と受け止めた一護に、地響きするような大きな笑い声が響いた。
「やるなお前!!いいど!オラの斧受け止めだ奴なんで何十年ぶりだべ!!
・・・よぉす・・・んだら今日は久すぶりに・・・手加減無すでやるべ!!」
高々と斧を振り上げ、十本といわず目が回るまで繰り出される"兕丹打祭り"の衝撃で崩れた壁の向こうで、平然と立っている一護に誰ともなく歓声が上がった。
「悪ぃ。潰すぜ、その斧」
次の瞬間、兕丹坊の巨体が吹き飛び、門に当たって止まった。
自分の斧が破壊されたことに気づいた兕丹坊の男泣きに、勝負が着いたことを悟る。
「えらい・・・めんこい男やな・・・」
斧を壊したことを謝る一護に兕丹坊が完敗を告げた。
「完敗だっ!!オラは戦士とすでも男とすでもお前えに完敗だ!!!
この白道門の門番になっで三百年・・・オラは一度も敗げだこどがながった・・・お前はオラを負かすだ初めでの男だ・・・。
通れ!
白道門の通行を兕丹坊が許可する!!」
一護の仲間もろとも入っていい言い、彼は門を持ち上げ――――――
――――――止まった。
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