薔薇には茨

□狭間
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「はぁい、ゆーびんやさん、ごっくろーぉさんた〜まし〜がひ〜とつ〜お〜ちま〜した〜。拾ってあっげま〜しょ・・・はい、一つ目ぇぇぇぇ!!」



「無理ッ!!落とせませんッ!!勘弁してぇぇぇ!」



「ほらほら、さっさと足を上げるんだよ」









容赦なく振り下ろされる鎌。



疲労困憊した様子の男がそれをギリギリのところでかわす。




そう、彼等は大縄跳びの『郵便屋さん』をしているのだ。・・・勿論、死神の鎌で。










「危な・・・ゲホッ・・・も・・・ダメ・・・死ぬ゛・・・!」




「何言ってるんだい?まだまだいけるよォ〜♪」




「俺・・・無理ッ・・・ケホッ」








実に苦しそうな白。だがしかし、彼の見方をするものは居ないだろう。



理由は簡単だ。




・・・白が必死に隠そうとしていたモノを、チート能力で無理やり引っ張り出したローズ。


そして現れたモノとは・・・








「まだまだこんなものじゃ足りないねェ・・・ヒッヒッヒ」







あられもないローズの入浴シーンであったり、無垢な寝顔をさらけ出している姿であったり・・・



つまり、盗撮写真である。







「だから謝って・・・」



「謝って済むなら警察は要らないんだよォ〜?

 本当なら名誉毀損で訴えたりとかありもしない罪を着せて刑務所にブチ込むのは簡単なんだけどねェ〜?」





「それ犯罪ッ・・・・・・!」



「盗撮も立派な犯罪だろう」




「うっ」




「それに、キミは小生に“ゴ”のつく油虫をけしかけてくれたよねェ〜?」



「あれ、不可抗りょ・・・ッぶねぇ!!」



「チッ、避けられたか」



「ソレ、縦に振る、ダメ、絶対いいいい!!!!」



「五月蝿いねェ・・・」






何の苦もなくデスサイズを振り回す彼女だが、白は内心冷や冷やしながらソレをかわす。




そんなカオスな攻防が続き・・・







「ゼェ、ゼェ・・・ゴホッ」



「神サマってのは皆キミみたいに弱っちいのか〜い?」




「お前がオカシイだけだっての・・・ゲホッ」






ローズが圧勝した。




だんだん早く、キレを増していく彼女の動きに白旗を揚げ、現在、息を切らしながら彼女の前で土下座をしている白。




対して、ローズは一切息を切らすこともなく、白に出させたふかふかの椅子に腰掛け、長い足を組んでいた。



・・・実に爽やかな顔をしている。




どこからどう見ても白の方が悪いのだが、どうも彼が可哀想に見えてくるのは何故だろうか。








「お前、もうさっさと転生でも何でもしちまえよ・・・」



「う〜ん、したいのは山々なんだけどねェ?どうも行き方が分からないんだよねェ〜。

 キミ、何か知らないかい?」



「あ・・・」








冷や汗を流す彼の顎を、靴のつま先で上げさせ、顔を覗き込むローズ。


ドS女王様モード全開である。






「・・・」


「黙ってないで何か言いなよォ〜」


「えっと、俺の出した扉から歩いていってもらうことになって・・・ます、ハイゴメンナサイホントゴメンナサイスイマセンデシタ!!」



「・・・ハァ」







ついさっきまではなんだかんだと煩かったのが直ぐコレだ、と溜息を吐くローズ。



そんな彼女の様子に軽く泣きそうな顔をしている彼は、隠れ・・・いや、隠し様もないただのヘタレだ。




さっきの縄跳びもどきの危険な遊びのお陰で、無事デスサイズの使い方をマスターした彼女は、デスサイズを消して立ち上がった。






「?」


「何、ボーっとしてるんだい?早くその扉とか言う奴を出しなよ」


「え、あ、おう・・・」







急に態度の変わった彼女に首を傾げながら、なにやら不可解な呪文っぽい言葉を呟き始めた白。










「・・・キミにとって、その女神サマってのは、何なんだい?」








ボソリと、小さく吐き出された問いかけに驚きつつ、彼は呪文を終わらせ、彼女に向き直った。







「何よりも、大切な人だよ。

 例えどんな理由であれ、彼女は俺を助けてくれた。不器用な人だったが、優しくしくしてくれた。


 家族とも恋人とも違う・・・なんだろな・・・ただこの人とだけ一緒にいたいと思わせるような人だったよ」




「・・・キミを利用しただけかもしれないじゃないか」



「あの人が俺を必要としてくれるなら、俺は喜んで利用されるさ」



「・・・随分と慕ってるねェ」



「あぁ、勿論」



「・・・そうかい」










彼女が何を考えているかは分からなかったが、彼は自分の語った話について、少しでも考えてくれただけ嬉しかった。



例え今の彼女が自分の知る彼女でなかったとしても、本質は何も変わらない。



不器用で、そのくせ人一倍優しくて、本当は甘えたで、悪戯好きだ。




何も、変わってない。




・・・だからこそ、彼女の望みを一つでも叶えたかった。





この先のことがどうなるかなんて分かりはしないが、彼女が白魔麗月であり、ローズであることに変わりはないのだから只じゃ済まされないだろう。





・・・いっそ、極悪人なら良かった。




人を怨み、どこまでも汚い人間なら良かった。




そうなってもおかしくないようなことばかりが起こったのに、彼女の魂は真っ白なまま。



その強さが、その優しさが彼女を苦しめることになるのに、彼女はソレさえも笑って受け入れてしまう。



理解不能だ。




正直、人間などいないに越したことはない。






自然が破壊されることも、食物連鎖の営みが捻じ曲げられることも、世界の均衡が傾くこともなかったのだ。





彼女に聞きたくて、でも聞けなかった。




何故そこまでして人間を救おうとするのか・・・。






一体・・・







「負の連鎖の深みにはまり込むのは良いけど、程ほどにして欲しいねェ・・・?」


「ッ!?」




ズイッと顔を覗き込まれ、白はそのまま後ろに倒れこんだ。





「ななな、ななななな」



「いや、話しかけても返事がないから死んじゃったのかと思ってね」



「そ、そそそそそそそそそそ」




「だって、直接見た方が早いじゃないか?」






・・・何故コレで会話が成立しているのかは謎だが、この際気にしないことにしよう。←






「えっと、うん、よし、準備オッケー」


「へぇ?」






暫くあたふたとしていた白を面白そうに見ていたローズだったが、飽きたのだろう。


卒塔婆に姿を変えたデスサイズで軽く白の頭をぶん殴った彼女。




激しい痛みを訴える頭を抱え、白はなにやら長い杖?みたいな白い棒を取り出し、空を突いた。












ピシッ・・・












突かれた場所に真っ赤な球体が現れ、そこを中心に白い大きな扉が姿を現した。








「はい、完成っと」




(何気にやるねェ)



「ん?感心しちゃった?俺カッコイイ?いいぜ、もっと褒めろ」



「独りで何言ってるんだろうねェ?空しくないのかね〜?」



「・・・グスン、えっと、取り敢えず、この中を通っていけばアッチの世界に着く。


 この中を通れるのは一人だけだから、頑張れ。


 中には白い道がずっと続いてて、行きたい世界のことだけ考えてりゃそのうち着く。



 ・・・他の事考えたら落ちるから気をつけてな」




「落ちる?どこに」



「ん〜、どこだろなー」


「・・・」



「嘘ですゴメンナサイ調子乗りました!!


 ・・・まぁ、分かりやすく言えば地獄みたいなところだ。後々厄介だから落ちないでくれ頼む」




「他には?」



「なし」



「そう。

 ・・・色々、ありがとう」



「(ローズの貴重なデレ!?)お、おう」




「またね」





短く言うと、彼女は扉に向き直った。




吸い寄せられるかのように赤い石に手を置き、力を込めた。

















ギイィィィィ・・・・・・















白い光の中に足を踏み出せば、後ろで扉が閉まった。














「・・・汝に幸あれ、白魔麗月」



























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