Der SuehIussel des Mondes
□平和な日常
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「誕生日おめでとう、玲!」
雪に覆われた山の奥の小さな家で、六度目の誕生日を迎えた少女を祝う家族があった。
「ありがとう!」
嬉しそうに笑う少女の名は柳玲。
母、里沙によく似た明るい少女だ。
「今日の夕飯はハンバーグよ♪」
「「やったあー!!」」
里沙の作るハンバーグは姉弟の大好物だ。
よほど嬉しいのか、二人は勢い良く里沙に抱きついた。
「さあ二人とも、手を洗ってらっしゃい?一緒に作りましょ!」
「「ハーイ!」」
とても温かく、穏やかな日常───
それは、音を立てて崩れ落ちる。
「はいこれ、こねてこねて〜」
大きなボウルに入れられた肉のミンチをこねていく。小さな手が楽しそうに肉をこねるのを見て、理沙はニッコリと微笑んだ。
「ストーップ。それじゃ、焼くから少し離れててね?」
少し柔らかいタネを丸く整え、フライパンを火にかける。
興味深深で覗き込んでくる二人を油が飛ぶからと離れさせ、温まったフライパンにいくつかのハンバーグを並べた。
フワリと香る肉の焼ける匂いや音に、姉弟の腹の虫が大きく鳴いた。
******
夜も更け、月がちょっぴりと顔を出した。
冬独特の寒さの中、暖かな食卓にはケーキが誇らしげにしている。カラフルな蝋燭が六本立てられ、小さな火が灯された。
玲が一息に吹き消し、歓声が上がったその時―――
ポッ・・・ポッポポポッ・・・ボッ!
蝋燭が再び燃え、青い炎が灯った。
「っ!玲、直人、離れて!」
里沙が怒鳴った次の瞬間、炎が膨れ上がった。
突然のことに理解が追いつかない子ども達。
「ママ・・・?」
「逃げなさい!」
里沙の必死の形相を見、玲は弾かれたように立ち上がり、弟を抱き上げた。
ワケも分からず泣き叫ぶ弟をそれでも落とさないように気をつけながら、一目散に外へと走る。
青い炎が踊り、理沙の悲鳴が夜の闇を引き裂いた。
「ママ!?」
思わず足を止めて家を振り返る。
心臓がバンバンと玲の胸板を叩き、緊張で息が上がる。
戻るべきか否か。自分が戻ったところで、一体何が出来るのだろう。
そんな思いが脳裏を掠めたが、居間の方から聞こえた爆発音に、玲は再び玄関の方を向いた。
一歩踏み出したところで、ずるりと滑り落ちた直人が更に大声で泣き出した。
「・・・っ直人、大丈夫だよ、お姉ちゃんがいるから!しっかり掴まってるんだよ!」
家の外は森に囲まれている。そこに入れば何とかなるはずだ。
必死の思いで痛む足を動かし、雪を掻き分ける。
一歩踏み出そうとして、足元に熱風が吹きつけ、深く降り積もった雪が一瞬にして溶けてしまった。
《あ゛?何でこんな所にガキがいんだ?》
「っ!?」
ぞわり。全身の毛が逆立ち、息が詰まる。
冷や汗が噴き出し、体が震えた。
(───逃げなきゃ)
逃げろ逃げろと本能が叫ぶのに、どうしてどうして、足は一歩も動かない。
直人を下ろして背に庇うと、ゆっくりとした動作で振り向いた。
《───ッフ、ハハ、ヒャーハッハッハッハッハッハ!
アッハハハハハ、お前、、コイツの娘かあ!ヒャハハハハ!》
「マ、ママ・・・?どうし・・・」
《残念だったなあ?お前のママははもう、オレの物だ!
ヒャッハハハハハハハア!》
圧倒的な何かに、玲は必死に体を抱きこみ、カチカチと五月蠅い歯を噛み締めた。
青い炎。確か、どこかで聞いた覚えがある。
あれは確か・・・そう、里沙が読んでくれた絵本の中に───
「───アク、マ・・・?」
青い炎を体中から迸らせる里沙が・・・否、"悪魔"が、ニンマリと口角を上げた。
《ヒヒ・・・。オレは悪魔の王、サタンだ!
覚えといてそんはないぜェ?》
「まァ、生き残れたらな」と低く笑ったサタンに、何を思うよりも早く足が森を向き、腕は直人を抱き上げていた。
(殺されるっ!)
しかし、覚悟したはずの熱や痛みのどちらも、玲達を傷つけることはなかった。
「私の子供に・・・手出しは許さない!!」
確かな里沙の声。振り返った先に見えた、青い炎などどこにも見当たらない母の姿に、玲の目が潤んだ。
声にならない声がひたすらに里沙を呼び、彼女もまた急いで二人の子供に駆け寄り、強く抱きしめた。
「二人とも、無事ね?」
「う゛んっ!」
もう大丈夫だ。あの恐ろしい悪魔は去った。
玲は里沙の胸に顔を埋め、小さな安堵の息を洩らした。
《人間風情が、大人しく体を使われていれば良いものを!》
ああ、まただ。恐ろしいあの声。どうしてどうして───
(どうして、私の体が青いの・・・?)
玲の体から青い炎が噴き出した。
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