宝を求めて

□三次試験
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AM9:30


目的地到着のアナウンスに、ヘヨカはヒソカに早着替えを披露すると、白い仮面をつけなおして部屋を出た。

船内の気配を探りながら歩く彼女に、影のように寄り添うヒソカ。


そんな彼を伴って船を出たヘヨカは、小さなマーメンの姿にゆるく口角を上げた。ヒソカの邪悪な殺気に当て続けられていたせいもあり、三次試験の説明をしている彼に飛びつく勢いで近づく。


「ここはトリックタワーと呼ばれる塔のてっぺんです。ここが三次試験のスタート地点になります。

 さて、試験内容ですが、試験官の伝言です。生きて下まで降りてくること。制限時間は72時間。

 それではスタート!!頑張って下さいね」


第三次試験の参加人数が40名であることを告げると、マーメンはヘヨカの方を向いた。


「お疲れ様です、ヘヨカさん」

「はあぁぁ…っ!なんて可愛いんでショウ!できればワタシもあなたと一緒に飛行船に戻りたい…!」

「また後程お会いしましょう、#ヘヨカさん。お待ちしております」

「あばば、そんなに期待されたら、頑張るしかないじゃナイですか」


その場でタップダンスのようなものを披露すると、ヘヨカは近づいてくるヒソカの方を向いた。


「ヒソカさん、ワタシと闘いたいと仰いましたネ?

 アナタが今回のハンター試験で誰一人として殺さないと約束してくださるナラ…いつでも結構。アナタの願う時、場所で存分に殺し合いまショウ?」


どこまでもどこまでも、底を感じさせない殺気を覗かせると、ひらりと手を振った。


「マァ、返事はこの試験の後にでも結構デスヨ。そんなモノは死臭で十分。殺さなければそれを返事として受け取らせてイタダキます☆

 あぁソウソウ、ワタシとしては誰を殺して頂いても構いまセン。その代わり、この試験が終わればワタシは二度とアナタの前には現れナイ♪

 ヨクヨク考えて行動なさってくださいナ」















カコン、と小さな音とともに隠し扉に身をくぐらせると、そのまま直下に降下し、少し開けた広間に着地した。


『共闘の道。君たち2人は二人三脚、右足と左足を枷で繋ぎ、この扉の向こうの敵と闘わなくてはならない』


看板の文字からしてもう一人受験者が必要であることを読み取ると、ヘヨカは地面に腰を下ろした。

ヒソカなら僥倖、近くで監視できるなどと思っていた矢先、上から落ちてきたのは針まみれの男、301番ギタラクルだった。


「カタカタカタカタ」

「いやあ、申し訳ありませんネェ、ワタシ、人語じゃないと理解できないんですよネェ」

「…カタカタ」

「★」


見つめ合っていても意味がないと足枷をつけると、スピーカーから男の声が流れた。


『君たちが歩むのは共闘の道。どちらかが戦闘不能または死亡で失格。足枷の破壊で失格。この条件のもと地上まで降りてくること。それでは、進みたまえ』


開いた扉に目を向けると、カタカタカタカタ鳴らしていたギタラクルがヘヨカに目を向けた。


「足手まといにはならないでよね」

「オヤ☆顔によらず可愛らしいお声ダ♪マァマァ、足手まといにはなりませんヨ」


二人が進んだ先に待ち構えていたのは、百余人にも及ぶ人数の超長期刑囚。


『ルールは簡単だ。彼らには君たちを殺す気でやるよう命じている。ただ勝てばいい。手段は問わない』


声を聴くと同時に動き出したギタラクルに、ヘヨカは鏡よろしく同じ動きで対応した。

次々に倒れていく囚人たちを傍目に、ヘヨカは時々仕掛けられる攻撃をかわしていった。

次の広間につくと、ギタラクルは足を止めた。


「君がやりなよ。俺飽きちゃったし」

「エェ…まぁ構いませんガ…」

「おーおー、ひょろっこい野郎が二人でよくここまで来たなぁ!」


ぎゃあぎゃあとうるさい囚人たちを前に、ヘヨカは溜息を吐いた。

自分に向けられる殺気に恐怖を覚えるヘヨカではない。煩わし気に細められた目には若干の殺意がこもっている。


「ワタシ、人殺しって向いてないんですよネェ、血を見るのも怖いデスし。

 勝てばいいそうですから、アナタたち、負けを宣言してくれませんカ?」


ふざけるな、といきり立つ男たちに、ヘヨカは人差し指を一本立てた。


「ワタシに血を流させなければ生かして返してあげまショウ?」


武器を持った集団に対し、ヘヨカは丸腰に等しい。そんな状態でどうするつもりかとギタラクルが見ていると、ヘヨカは何もしなかった。

正確に言うなら、回避以外の行動はとらなかった。繋がれた足を使うことすらせず、二本の腕と一本の足だけで避け、流していく。

汗水一つ流さず避け続け囚人たちが疲労を見せ始めたころ、それは起こった。

囚人の一人が投げた鎖鎌が、僅かにヘヨカの頬を掠ったのだ。つ、と一筋血が流れると、ヘヨカは長い舌を伸ばしてそれを受け止めると、囚人の鎌を奪った。

ヘヨカ地をも揺らしそうなほどに殺気を膨れ上がらせた。


「ワタシの血の一滴はファミリアツァルト一座の血…ワタシの血が流れた…一座の血が流れた…血…一座の血…」


彼女の放つ殺気が徐々に濃度を上げ、タワー内部が軋み、悲鳴を上げた。


「アァ…そうか…ネテロ会長…そうだ…いまの私は…そう…違う…いや、だが…」

「ねぇ、ちょっと」

「ハァ…がまん…がまん…」

「ねぇってば」

「うるさいなァ…もう…」

「オレ、無視されるのキライなんだけど」


ヒュ、と小さく耳元で鳴った風切り音を避けて隣を見ると、彼女と足を繋がれたギタラクルが特に表情を変えることなくヘヨカの方を向いていた。

ぬらりと不気味な動きで顔を上げたヘヨカは、その殺気に似合わずこてんと可愛らしく首を傾げた。


「その殺気、ウザイからやめなよ」

「…はぁ」


はた、と正気に戻ったヘヨカがあたりを見回すと、囚人達が苦しそうに息をしながら地面に倒れこんでいた。

彼女の狂気を孕んだ殺気に気を失っているものもいれば、失禁しているものまでいる。

ふと重みを感じて手を見れば、いつの間にか握られている鎖鎌に、ヘヨカは驚きの表情を見せた。


「オヤ失敬★お声かけありがとうございマス♪アブナイアブナイ、危うく全員殺してしまうところでした☆」


さて?と彼女が囚人たちの前にしゃがみ込むと、明るい声でまだ続けるのかと尋ねた。

それは先ほどの膨大な殺気を放っていたことなどなかったような態度で、実に可笑しそうに放たれた言葉だった。

その異様さ、不気味さに囚人性質は脅え、負けを宣言した。

この場にはもう、戦意を維持していられる人間はなく、ヘヨカ達は開いた扉を後にした。


「ヒソカと一緒にいるなんて変なヤツだと思ってたけど、なかなか似てるところがあるよね、ヘヨカって」

「嫌ですネェ、あの変態と同じ扱いだなんテ★でもまあ、アナタに助けられたのも事実デスから、構いませんがネ♪」


フンフンと機嫌よさげに歩くヘヨカの歩調は完全にギタラクルに合わされており、彼はほんのわずかに目を細めた。


「イルミ」

「は?」

「オレの本名。ギタラクルは偽名」

「…あー、ナルホド、ゾルディック家の長男ですかぁ…ナルホド」

「よく知ってるね。ソッチの人間?そうは見えないなあ」

「そうでしょうね、まあ。えーソウデスネ、ワタシは何度かゾルディックの方々にお世話になっておりますシ。うーん」


どうも歯切れの悪いヘヨカに、イルミは首を傾げた。こんな人間一度見たら記憶の片隅に覚えていそうなものだが、と記憶を探る。


「お家にお邪魔したこともありマスよ♪」


ウインクして見せたヘヨカに、イルミは肩をすくめる。


「誰なの」

「それはヒ・ミ・ツです★」


次々に現れる囚人を鎖鎌で蹴散らし、死なない程度に傷を負わせながら二人は地上に足を踏み入れた。



『301番ギタラクル、3次試験通過第二号!406番ヘヨカ、3次試験通過第三号!!所要時間、7時間26分!』



先に到着していたピエロルックの男に、死臭はなかった。











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