哄笑クラウン
□不審者
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コポコポ・・・
只今絶賛御茶淹れ中・・・
至極楽しそうに話すピエロに続きを促したが、返ってきたのは『それよりアナタ、客に御茶も出せないんですか?』だった。
・・・腹が立つ!!
適当に淹れて部屋に持って行った。
一人暮らしで良かったと、心底思う・・・。
「はい、ど、う、ぞ?」
思い切り凄んで、湯飲みを机に叩きつけた。
「アリガトウゴザイマス♪」
・・・奴がたまにする片言が、無性に神経を逆撫でて来る。
明らかにイライラしている彼女を笑いながら、ピエロは湯飲みを手に取った。
「・・・苦いです」
「知らん」
「・・・襲いますよ?」
「全力で殺しますよ?」
真っ黒な笑みで言った彼女にピエロは笑みを洩らし、苦すぎる御茶を飲み干した。
「さて、アナタから頂く対価ですが・・・」
「うん」
「一つ目は、アナタの名前」
ピ、と左手の親指を立てたピエロ。
「名前?」
名前なんて、取って何になるのか。
そんな彼女の疑問を読み取ったかのように、ピエロはニタリと笑う。
「名前、即ちこの世界でのアナタの存在を意味します。
生まれると共に、モノは全て名を授けられる。
それは、唯一の居場所です。
それを、頂き、ワタシだけの物にする」
「あ、そう」
パチリパチリと、彼女の中でパズルが形成されて行く。
きっと、この条件は、私の居場所を完全に奪うもの。
私の名は彼だけの物となり、他の人間の記憶からは消し去られる。
・・・これが、クラウンの・・・癪に触る道化師の玩具になるってことか・・・
「二つ目は、ワタシを飽きさせないこと。
飽きたら、アナタを捨てますから悪しからず」
そう言って人差し指を立てる。
コイツ・・・っ飽きさせないとか意味不明だ!
そんなん人それぞれじゃない!
「最後に」
まだあるのか・・・
「アナタはワタシの物ですから。
その事を忘れなければ、恋愛なり何なりしてくださって構いません♪」
「・・・」
以外や以外、恋愛はOKらしい。
ピエロは立てた三本の指を揺らし、彼女の前に突き出す。
「守れます?」
「当たり前じゃん。
・・・あんたが私に飽きるかどうかは分かんないけどさ」
「だぁい丈夫ですよ☆
アナタはなかなか飽きそうにないですww
だって、」
飽きそうになったらアナタで遊べますし♪
上機嫌で言うピエロに、彼女は顔をしかめた。
私で遊ぶって・・・み、身の危険を感じる・・・!
ケタケタと笑いながら、ピエロが彼女に近づく。
「では、ワタシと契約です☆」
膝まづいたピエロにごく自然な動作で腕を取られ、少し顔をひきつらせた彼女。
chu♪
「っ//////?!」
強く、少し痛みを感じるくらいに吸い付かれ、顔を朱に染める。
「クックックッ・・・アナタ、男性経験ないでショウ?」
「煩い!」
あからさまな図星に笑うピエロは、どこか妖艶でペースが乱れて行く。
「さぁ、できましたよ」
「?」
ホラ、と見せられたのは、先程口付けられた手ところ、つまり右手の甲。
・・・そこに、刺青のような幾何学模様が浮かんでいる。
「ちょ、コレ何?」
「契約印です☆魔方陣だとでも思っておいてクダサイ♪」
アナタを、ワタシに縛り付けるための、ね・・・
「・・・何、コレが有る限り私はあんたの物って証拠?」
「まぁそんなところです」
「独占欲パネェι」
「こんなモノつけなくともアナタはワタシから逃れられないのですが・・・アナタがコレを見るたびに顔を紅く染めるのが何とも・・・キますからww」
「どS!変態!鬼畜!コレ絶対色んな誤解招くし!」
怒鳴ってみても、何のその。
逆に手を捕まれ、何かを被せられた。
・・・布?
「?」
「ハイ、チチンプイプイのプイ〜☆」
「?!?!」
ピエロが言った瞬間に、手に違和感。
・・・手袋?
でもやけに手触りが良いような・・・
「ハイ、手袋です♪
シルク製なので、買ったら高いでしょうネ〜」
「・・・あんた、まさかとは思ってたけどさ、心読めたりする?」
ピエロは何も答えなかったが、コイツの顔!
絶っっ対、コイツ心読める!
「プライバシーの侵害だ!」
「ワタシの物になったんですから、プライバシーなんてあるわけないじゃないデスカ」
呆れたような物言いだが、筋は通っている気が・・・する?
頭を抱える彼女にニヤリと笑い、ピエロは彼女を抱き寄せた。
「ちょっ!」
「良いでしょう、少しくらい」
そう言って肩に顔を埋めるピエロに、彼女は溜息を漏らして力を抜いた。
「これから、アナタをアナタの望む世界にご招待致します。
何処かご所望は?」
「・・・耳元でしゃべるな。
それってさ・・・トリップ出来るってことだよね?」
「ハイ」
「なら・・・」
チラリ、と先程まで読んでいた漫画を見やる。
彼の死を変えられるならと、私は望んだ。
今こそ、絶好のチャンスだと思う。
そうだね、私は・・・
「此処がいい」
そう言って、近くに置いていた漫画をピエロに見せる。
「はぁ、此処ですかwwまた酔狂なヒトですネェ♪」
・・・兎に角、いい加減離れて欲しい。
悔しいが、男性経験がないのは事実。
さっきから心臓がヤバイ///。
そんな彼女の望みを分かっているだろうピエロは、更に抱き締める力を強めた。
「いいでしょう。
世渡りしましょうか♪あ、目は瞑ってワタシに抱き付いておいて下さいネ♪
・・・折角の玩具が壊れては困りますから」
それはそれで構いませんが
「や、困ります構います!
というか、あんた何でも急すぎι
何、世渡りってトリップ?」
「そうです♪
さぁ、目を閉じて」
「・・・」
頼むから耳元で喋らないで欲しい。
私は耳が・・・
深呼吸をし、目を瞑る。
緊張気味に抱き付いて来た彼女を抱き締め、ピエロは笑った。
「大丈夫。安心してください。
アナタがワタシの物で有る限り、アナタの安全はワタシが守りますから」
「・・・ん。分かった」
今までと違う、優しい・・・心底安心するような声で囁かれ、彼女は力を抜いた。
コイツになら・・・私を任せても、良いかもしれない・・・
「クスッ・・・イイ子です」
哄笑のクラウン
彼は笑う
新しい玩具を前に
[可愛らしいワタシのお人形・・・
離しませんよ、絶対に。
アナタが泣いたって、叫んだって、離しません。
だってワタシは・・・哄笑のクラウンですから♪]
To be continued...
→あとがき