貴方が、居るから

□捜査
5ページ/6ページ








   「っ!!!」



 目覚めた、というよりか何処かから弾き出されたような・・・兎に角、気分が悪い。


 流れる冷や汗を拭い、彼はワタリを呼んだ。



   「!、どうなさいました、L」


 様子のおかしい彼を心配するが、彼は軽く首を振っただけで、指示を出す。



   「FBIに繋いでください速く!」


   「・・・」



 執務室に向かいなら言う彼に驚きを隠せないが、ひとつ頷いて、彼の言うままに。





§





   [ま、また随分といきなりですね(汗)]


 ガタリと椅子に飛び乗った彼は、素早くマイクを引き寄せた。


   [そうですね、メンバーは決まりましたか?]


 全く気にしていない様子の彼に画面の向こうで、アルバートは肩を落とす。


   [勿論です・・・]


   [それは結構。

    では、今から指定する場所に皆さんを連れてきてください]


   [?はぁ、それは構いませんが・・・急ですね]


   [・・・一週間も待っていられません。

    一刻も早く、犯人を捕らえます]

   [!私の手紙、ちゃんと読んでくださったんですね!

    分かりました、今すぐ行きます!]



   [では、場所は――――]





 ブツ・・・




 やたらと張り切っている彼に後を任せ、Lは通信を切った。


 あの、夢に出てきた少女・・・絶対に、事件と関係がある。


 例え、これがただの勘であっても、誰にも否とは言わせない。


今はきっと・・・彼女が危険だ。
 

 早く・・・早く・・・



 早くしなければ、彼女が遠くに行ってしまう。





   「一体、何処に居るんですか・・・」









§







 ピーンポーン・・・



   「ワタリ、お通ししてください」


   「分かりました」





 ガチャ





   「どうぞ、お入りください」


   「「「失礼します」」」



 扉の向こうには、二人の男性に、一人の女性。


 私服で来た彼らを部屋に通す。




 彼らの目に入った最初のもの。

 それは、酷く猫背な誰かの後ろ姿。



 クルッ




   「ようこそ来てくれました、FBIの皆さん」


   「・・・コイルさん、ですね?」


 一歩前に進み出た男性に、彼は頷く。


   「そう思ってくださって構いませんよ、アルバートさん。

    ・・・少ないだろうとは思っていましたが、三人ですか。

    可哀想な方ですね?」


   「確かにコイルだ・・・」


 肩を落とす彼は、思いきり溜め息を吐いた。




 かの有名な『エラルド・コイル』がまだ青年だったことにも驚きだが・・・


 何よりもこの言い方!


 絶対コイルだ・・・




 少しのLとの対談で受けた衝撃的な言葉の数々や言い方に納得した28歳アルバート・・・


   「他の方は?」



   「あ、部下の・・・」


   「レイモンド・バジルです」


   「あ、イザベラ・オズワークです。

    お会いできて光栄です、コイルさん」


   「はい、宜しくお願いします。

    彼は・・・・・・渡辺。

    私の身辺の世話をしてくれています」



   「ほほ、渡辺です。

    宜しくお願いしますね」



 一通り自己紹介を終え、Lはアルバートの方を向いた。


   「今回お集まり頂いたのは、他でもありません。

    誘拐事件を、一刻も早く終わらせるためです」


   「「「はい」」」


 三人を観察しながらも、彼はどんどん先を続けた。





§





   「――――――とまぁ、こんなものです」


 説明が一段したところで、彼らは大きく息を吐いた。


 特に、彼のセキュリティ面での話の細かさに、頭がパンク寸前だ。


 その上、GPS搭載のベルトだの、偽造パスポートだのをホイホイと渡され、ついていくのに精一杯。


 見かねたワタリが出してくれた紅茶を有り難そうに飲み込んだ。



   「何かご質問は?」


   「・・・あの」


   「はいアルバートさん」

   「どうしたらそんなに長い間息継ぎなしで話せるんですか」


   「ワタリ、お代わりを」

   「畏まりました」


   「無視ですか!」


   「えぇ無視です。当たり前です」


   「・・・」



 本気で落ち込むアルバートを、心優しい部下二人が慰める。



   「取り敢えず、そちらで分かっていることを報告お願いします」


   「グスッ・・・はい」





§




   「お疲れ様でした。

    本日はもう帰って頂いて構いません。
    後日連絡しますのでそれまでは皆さん今まで通りになさっていてください。ではさようなら」




 話が終わった途端彼等を追い出したL。

 些か無礼な気がするが、彼のいつになく真剣な表情に、それを注意するべきではないタイミングであることをよく分かっているワタリは黙って紅茶を注ぎ足す。




   「ワタリ」


   「はい」


   「・・・14年前にロンドンで生まれた女児を、調べてください。」


   「畏まりました」





 調べても分からないだろう。

 本当に戸籍がなかったとしても、だ。


 もし、国外で生まれていたら?

 顔立ちのはっきりしない赤ん坊から、彼女の顔が判別できるのか?

 もし、彼女の父親に医師免許などがあり、誰にも知られずに彼女が取り上げられていたら?







 無謀だと。


 無茶だと。


 矛盾だらけだと。






 分かっていても、諦めることは出来ない。


 


 何故だろう。





 あまり人に執着しない自分が、何故ここまで彼女を執拗に調べ上げてまで、彼女を探そうとするのか。





 彼女は、ただの夢かもしれないのに。




 頭ではそうと分かっていても



 心が、



 本能の部分が、



 それを全力で否定する。





   「・・・私はまだ貴女の名前を聞いていませんよ。名乗らせておいて貴女は名乗らないなんて、ズルイじゃないですか。

    私、貴女に振り回されてイロイロと不完全燃焼なんですよ。


    急にお礼を言われるわ夢からは締め出されるわ・・・本当に迷惑です。


    必ず、見つけ出しますからね・・・覚悟して置いてください」







 ニヤリと悪い笑みを浮かべる彼。


 そんな彼を見ながら少し・・・ほんの少しだけ引いてしまったワタリ。



 彼を本気にした誰かさんに、心からどうj・・・いやいや、ごめいふk・・・違う。


 彼を本気にしてしまったのだ、犯人は直ぐに捕まるだろう。



 あとは、時間と・・・



 彼の、問題だ。



 最近否に人間らしさを増している。素晴らしいことだが・・・少しだけ、その人格に不安を抱いてしまうのは仕方がないことだと弁解させて欲しい。 










 
 犯人逮捕までのカウントダウンが始まったことを、彼は静かに感じ取るのだった・・・。











 §


次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ