科学者の持論

□第玖話
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「さぁどうぞ〜」

「・・・ん、お邪魔します〜」


居間に通され、彼女は大量のお菓子を手に座布団に腰を降ろす。


浦原が見ている前でなんの躊躇いもなく菓子に手を伸ばした。・・・目一杯口に含む様はまるでリスだ。



「はいどうぞ」

「ん、おおきに」



湯飲みと急須を持ってきた浦原からお茶を受け取り、口を付けることなく机に置いた。




「えっと、話、初めてもいいっスかね?」

「んぐんぐ、ろうほー」(どうぞー)




「・・・じゃ、質問しますね」



「ん」



「月酒サンは、何処出身なんですか?」


「京都へおこしやす〜」


「京都っスか」

「ん」




既に半分になっているお菓子の山に、浦原は苦笑した。




「実年齢は?」


「じゅーご」


「え?」


「らんやねん、ほの『え?』は」(なんやねん、その『え?』は)


「いやぁ、老け顔っスね」

「しばかれたいんか、あんた」


「・・・」






何故そこだけわざわざ口の中を空にしてまでクリアな発音で言うのか。


些か問い正したい気分にもなったがここは我慢だ。またの名を大人の意地とも言う。




「えっと、ご両親は」

「なんやねん、事情聴取かいな?めんどくさー」




煎餅を齧りながら、優希は不満顔だ。




「・・・ん、お菓子、なくなってもた・・・・・・」




人差し指を咥えてお菓子の入っていた袋、もといゴミを見つめる優希。


眼鏡の所為で実際はどこを見ているかなど分かりはしないのだが、これは絶対になくなった菓子を惜しんでいる。




「・・・なんなら、もう少しいります?」


「!」




途端にキラキラとした目で浦原を見つめる優希。眼鏡の所為で実際h((ry




「・・・好きなだけどうぞ」


「やったああああ!!めんどい奴や思てたけど、ええ奴やな!甘党に悪い奴ぁおらん!!甘党は正義!!」



「・・・」





えもいわれぬ複雑な心境とはこのことだろう。



しかし、甘いものをちらつかせればなんでも言うことを聞くことが分かった。


いい収穫とも言える。




しかし、矢張り経済的にh((ry






「ふんふんふ〜ん」


「(あーあ、鼻歌なんか歌っちゃって)」







再び戻ってきた優希の手には、驚いたことにペロペロキャンディーが一本握られているだけだった。






「それだけでいいんっスか?」


「ええんや。ウチの両親のことやっけ?」


「あ、そうですそれそれ」







「ウチ、孤児やってん」






「え?」










「人のええ老夫婦に引き取られてんけどな?その後、また孤児院に戻ることになってな。

 その老夫婦が頼んでたらしい人に引き取られたんよ。

 ・・・で、ここに来たってわけ」



「あー、悪い事を聞いちゃいましたね」



「んーん?別に〜。ええから普通の何も入ってないお茶ちょーだいな」



「・・・バレてましたか」


「変な臭いプンプンさせとる茶なんか、飲むわけないやろ」


「・・・」(汗)




無味無臭の自白剤を入れたつもりだったのだが、この少女の鼻は一体何の臭いを嗅ぎ付けたのだろう。





「怪しい臭いと悪巧みしとる臭いや」


「どんな臭いっスか!?しかもそんな臭いしないでしょう!?」


「ナイス突っ込み」


「〜〜〜〜!」





悔しい。何だこの敗北感は!




浦原はギリギリと歯を鳴らしながらお茶を淹れに行った。







「・・・ほんま、めんどいやっちゃな」





チラリと、部屋を出て行く背を見つめながら呟いた。





「そう思わへん?黒蝣さん」


〔だから言っただろうに。下手な勧誘など振り切って帰っておればよかったのだ〕


「だってぇー」



〔暫く菓子は禁止だ。少しは懲りろ〕



「んなっ!?それはアカン、アカンよ黒蝣さん!!ウチ、そないなことされたら死んでまうがな!!」






「どうしました〜?」





ひょこっと顔を覗かせた浦原に、優希はどこかしょぼくれた様子で首を振り、飴を咥えた。




「・・・」



「むう〜〜〜」




まるで駄々をこねる子供だ。



新しいお茶を彼女に渡し、正面から彼女を見つめる。





「・・・何や、ジロジロと」


「いやぁ〜。・・・お姉さんの話を聞かせてくれませんか?」




「聞くと思たわ・・・」






小さく溜息を洩らし、彼女は湯飲みを手に取った。




「ウチに姉がおるて知ったんは、丁度ウチが孤児院から完全に独立して二年経った位かなぁ・・・手紙もろてな。


 そこに書かれてた内容を信用して、ウチは姉さん探しながら何人かの人に伝言伝えとるんや」




「・・・手紙、だけで・・・?」



「おん。あの手紙だけでじゅーぶん」





普通、本当に血がつながっているかも分からない誰かからのよ手紙を信用するだろうか・・・?



見た目とは違い、結構お人よしなのかもしれない。



それとも、彼女を納得させる何かがそこにあったのか・・・



いずれにせよ、彼女が何らかの形でルナと繋がりがあるのは確かだろう。






「その手紙、見せてもらえませんかね?」


「捨てた」


「やっぱだめですよね〜・・・って、捨てた!?」


「せや」


「『せや』じゃないっスよ!!何捨ててるんスか!?」







騒ぐ浦原に眉を寄せ、優希はイライラと言う。






「そんなもん、ウチの勝手やろ?アンタにとやかく言われる謂れはないわ」




「そりゃそうっスけど・・・」






「・・・面倒や。もう帰る」





「え!」






「何や、その『え!』は。また来るさかいまけてな。ほな」














それだけを言うと、彼女は立ち上がった。





「ちょ・・・」





慌てて浦原も立ち上がり、優希の後を追うが・・・





「なっ!?」







店の鍵は開錠され、彼女の姿は既になかった。





「月酒サン、貴女は一体・・・」



























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