宝を求めて
□二次試験
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豚の丸焼き71頭を軽く平らげたブハラに呆気に取られるも、無事71名が合格した。
「あたしはブハラと違ってカラ党よ!!審査もキビシクいくわよー。
二次試験後半、あたしのメニューは・・・スシよ!!」
途端にざわめきが広がり、握りしか許さないというミンチの声と共に後半の試験が開始された。
「ねぇヘヨカ、キミはスシが何なのか知ってるかい?」
「知っていますヨ★なのでここは離れさせてくださいネ?自力でやらなきゃゲームは詰まらないものになってしまいますからネ」
「んー・・・仕方ないなあ♥︎」
それじゃ、と片手を上げたヘヨカは外へと姿を消した。
✡
会場へと戻ってきたヘヨカは、周囲の視線をひしひしと感じながら調理台に近付いた。
「おっとこおは〜スシ〜と茶〜でいっぱーつきめにゃあ・・・おとぉーこーとーは言えんーわあぁああ〜〜はーじわあいなあー」
変な歌を歌いながら手際よく手元のエビを捌いていく。
さて、と腕まくりをすると、ヘヨカのまとう空気が一変した。
「へいお待ちッ!」
ねじり鉢巻を三角帽の上からしたヘヨカはバンッと皿をミンチの前に置いた。
「あら、早かったわね。ふうん、形はいいけど・・・」
スシを口に運び、メンチはうーんと唸った。
「悪くはないけど・・・ネタが弱いわね。やり直し!」
「無茶ナッ!」
スシはそもそも海水魚だ。川しかないようなこの地の魚を使い握りなど無茶にも程がある。
川エビを使ったが、海老に比べれば味が淡白になるのは百も承知だ。
それを補うものなどどこにあるというのか。
弱りきってブハラを見つめてみたが、彼はぼけっと首を傾げただけだった。
(ハッ!豚!)
「ありがとうブハラさんッ!流石美食ハンター!!」
スキップでもしかねないヘヨカに、美食ハンターの二人は顔を見合わせた。
✡
豚を持ち帰ると、メンチの前に出来た長蛇の列に、ヘヨカは首を傾げた。
受験生の皿を通りすがりに見、メンチに哀れみの目を向ける。
これはスシとは呼べない。
グレイトスタンプやら木の実やらを調理台付近に並べ、ヘヨカは包丁を手に取った。
豚を一瞬にしてさばき、フライパンを火にかけ、薄切りにした肩ロースを放り込むと、調味料やら何やらを足していく。
生臭さ満開だった会場に、肉の焼けるいい香りが広がった。
「・・・ま、こんなもんでしょ」
余った豚を圧力釜に入れて火にかけて味付けをし、蓋をして火にかけたまま、ヘヨカは列の最後尾に並んだ。
あと何人いるのかと人数を数えていると、前方の方で怒鳴り声がした。
ハゲ頭に向ってメンチが何やら叫んでいるが、声が大きすぎて若干何を言っているのか聞き取れない。
「・・・審査に響かないとイイんですがネェ・・・」
暫くしてやっと順番になり、ヘヨカは得意げに皿を置いた。
「・・・これは?」
「〜ヘヨカ特製!グレイトスタンプの生姜焼き、試験官殿に愛を込めて〜デス!」
「・・・」
盛大なウインクに噴き出したメンチは、皿の上に並んだスシの一つを口に運んだ。
ヘヨカの勝利を確信した態度も余所に、メンチは黙ったままスシのネタだけを食べていく。
「ご飯が合わないわ。やり直し」
「なんそなかばッ!?酢飯しか用意されてなかったじゃないですかッ!!
生姜焼きは美味しかったんでしょウ!?合格にしてくれてもッ!!」
「うっさいわねそれくらい何とかしなさいよ!!」
「メンチ〜オレにも一口〜」
「駄目よこれはあたしの試験なんだから!」
生姜焼きを食べ終わったメンチは残していたシャリを食べて「次!」と叫んだ。
見事に玉砕したヘヨカはやる気をごっそり削がれ、さっきまで使っていた調理台に戻り、鍋の蓋を開けた。
―――途端、皿を持ったブハラが目の前に現れた。
「・・・?」
「オレにも一口!いいだろ?」
「いやいや★散々不合格にしておいてそんな虫のいい話あるわけないじゃないですカ♪」
「メンチからも頼まれてるんだ、ね?一欠けらずつでいいからさ!」
「知りませんよ彼女のお題はスシでショウ?スシで腹を満たす覚悟をしてそう言ったのでしょうから我儘言うなとお伝えください★
まあ、ブハラさんには特別、昔のよしみでダシだけなら飲んでも構いませんよ♪」
「もらう!」
「そこは肉もって言えヨ!そんな意地悪しませんヨ流石ニ!」
自分の昼食用にと作っておいたグレイトスタンプの角煮を少し分けてやり、ヘヨカはニンマリと笑った。
「ここで食べていって下さいネ★」
メンチを振り返ってニンマリと笑って見せると、彼女は物凄い顔で睨んできた。
「ヘヨカもよくやるよ。食べ物の恨みは怖いって言うのにさ」
美味しそうに角煮にかぶりつくメンチを傍目に、ヘヨカも箸を進める。
白米がないので仕方なく酢飯と食べるが、やはり合わない。
「んん〜!流石ワタシ!絶品ですネェ〜!」
少し大きめに言えば、メンチの方から歯軋りが聞こえた気がしたが、あくまで気のせいだっと聞き流す。
「悪!!おなかいっぱいになっちった。終〜〜了ォ〜〜!!」
まさかの合格者ゼロという結果に、会場の空気が変わった。
「だからーしかたないでしょ、そうなっちゃったんだからさ。いやよ!!結果は結果!!やり直さないわよ!!
報告していた審査規定と違うってー!?なんで!?はじめからあたしが“おいしい”って言ったら合格にするって話になってたでしょ!?」
おそらくハンター協会の審査委員会ともめているのだろう、決定は覆さないと突っ張るメンチに、受験生達がざわめいた。
あまりにも理不尽だと詰め寄られても、メンチは頑として受け入れない。
ドゴオォンン!!
「納得いかねェな。とても、ハイそうですかと帰る気にはならねェな。
オレが目指しているのはコックでもグルメでもねェ!!ハンターだ!!しかも賞金首ハンター志望だぜ!!
美食ハンターごときに合否を決められたくねーな!!」
調理台を破壊した255番の男に、ヘヨカは仮面の下で眉をひそめた。
「それは残念だったわね」
「何ィ!?」
「今回のテストでは試験官運がなかったってことよ。また来年がんばればー?」
メンチの言いようがよほど腹が立ったのか、彼女に殴りかかっていった彼は、その拳が届くことなくブハラの強烈なビンタで外まで飛ばされた。
彼女の求めていたものが何たるか。また、ハンターたるものが何たるものかを語る彼女に、受験者達はそれでも納得がいかないとメンチを睨んだ。
「それにしても合格者0はちとキビシすぎやせんか?」
空から降ってきた声に急いで外に出ると、そこにはハンター協会のマークを掲げる飛行船が浮かんでいた。
すると、突然上空に黒い影が現れ、物凄い勢いで落下してきた。
何事もなかったかのように飛び降りてきた老人がハンター協会の会長、ネテロであることが明かされ、思わぬ人物の登場に騒然とする。
「メンチくん」
「はい!」
「未知そのものに挑戦する気概を彼らに問うた結果、全員その態度に問題あり。
つまり不合格と思ったわけかね?」
「・・・いえ」
テスト生による料理を軽んじる発言や、料理の作り方がテスト生全員に知れてしまうトラブル、それらの要因が重なり頭に血が上っている間に満腹になってしまったことを説明し、彼女は審査不十分であったことを認めた。
「スイマセン!料理のこととなると我を忘れるんです。審査員失格ですね。
私は審査員を降りますので試験は無効にして下さい」
「ふむ・・・審査を続行しようにも選んだメニューの難度が少々高かったようじゃな」
少し悩む様子を見せたネテロ会長は、メンチにも実演させるという形で新しいテストの実行を命じた。
「その方がテスト生も合否に納得がいきやすいじゃろ」
「そう、ですね。・・・それじゃ、ゆで卵。
会長、私達をあの山まで連れて行ってくれませんか」
「なるほど。もちろんいいとも」
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