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□君色ステーショナリー
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あ。
壊れてしまったシャーペンを買い換えるためにやってきた店で、また「あるもの」を見ていることに気づいた。
それは、水色のシャーペン。
水色に、ピンク色の小さなドットが入った品物。
どちらかといえば女向けなそれは、可愛いって言われるのが嫌な俺には至極嫌いなタイプのはず。
なのに、目を奪われた。
最近、つい、水色のものを見てしまうことが増えた。
それにピンクが入ったものなら尚更。
やっぱり、あいつを連想するからだろうか。
水色のくせっ毛、琥珀色の猫目の、生意気な後輩。
そして、互いの「好き」を交換できる相手――言うなれば、恋人だ。
初めは、色々あって、お互い大嫌いだったのに、いつの間にか惹かれあっていた。
最初こそその気持ちに戸惑ったものの、今では確かに肯定できる、本来なら異性に贈るはずの「好き」。
まさか彼から打ち明けてくるなんて思いも寄らなかったが…。

そうやって、大好きなあいつのことを考えているうちに、あいつの声が聞こえてきた。ついに幻聴まで聞こえたかと思ったが、それは確かに、本物だった。
「先輩?そんな可愛らしいシャーペンなんか見てどうしたんですか?」
振り向くと、少し口角をあげた彼が、そこにいた。
「狩屋。…なんでここに?」
すると彼は、ため息を吐いた。
「文房具買いに来る以外に何の理由がありますか。」
「そういえばそうだ。」
ははっ、と笑うと、彼が持っている消しゴムが目に入った。
「お前…なんでそんな派手な消しゴム持ってんだよ。」
「え?……!!」
明らかにやってしまった、という顔をした狩屋。
それもそうだろう。だって俺が見ていたシャーペンとどっこいどっこいな女向けのピンクの消しゴムを持っているんだから。
「先輩には言われたくないんですけど…」
「おい。」
ちょっと怒りを込めてそう言えば、さーせん、と謝罪の気持ち皆無の謝罪をした。
そして無言。
恋人が(故意ではないが)その場にいるのに、沈黙だと、流石に悲しい。
すると、狩屋が動いた。
「あの」消しゴムを持って、レジに向かう。
105円、それの対価として払う。
ありがとうございましたー、とテンプレートな店員の言葉が聞こえた。
そして、こちらへ来る。
「先輩もそれ、買ってくださいね。」
指差したのは、水色のシャーペン。
少し頬を上気させた彼の言いたいことがわかった。
お互いの色を、持っていたいのだ。
学生にとって一番身近な文房具として。
目の前の狩屋が無性に愛しく思えて、はいはい、と適当に返して、レジへ向かった。


――翌日。
互いに、クラスのやつからからかわれたのは、言うまでもない。


君色ステーショナリー




fin

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