本丸

□千日紅 《いちみか♀》*
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きっかけはちょっとした出来心であった

某本丸に何振目かになる刀剣女士として顕現した三日月宗近に一目惚れした一期一振

一期は失ってしまった記憶を乗り越えて、『過去は過去。囚われることはない』とのらりくらりと告白をかわしていた三日月を紆余曲折の末、見事捕まえた

その紆余曲折は当人は至って真面目でも周りから『いいから早くくっつけよ』と思われていたのを知らぬのは本刀達だけである

それは...非番が重なった時には一緒に出掛けたり、任務後の夜に盃を片手に他愛の無い話をしたりなど幸せな日々を送っていたある日のこと

一期は、暖かな陽気に誘われたのか縁側で昼寝をしている三日月を見つけた


「三日月殿、風邪を引きますよ」


ぐっすり眠り込んでいるのか、声をかけても反応はなく、規則正しい寝息が聞こえるだけである

軽く揺すってもみたが、夢の世界は三日月を手放さない

ちっとも起きてくれない恋刀に一期はほんの小さな悪戯を思い付いた


「......三日月」


普段決して呼ばぬ敬称を外したその名をそっと囁く


「......ん、」


すると、ゆるゆると瞼が上がり月を宿す瞳が見えた

寝起きでぼんやりとしたまま一期を見つけると、三日月はふにゃりと嬉しそうに笑う

そして、小さく呟いた


「・・・お前さま」

「え?」

「...もう少し、寝かせておくれ」


聞き覚えの無い呼び名に一期が困惑するが、三日月の瞼は下がり再び眠りの世界へ旅立っていく

残された一期は茫然と座り込む他なかったのだった
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