君の名前にアンダーライン

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「ごめん。私の計算ミスだった。あのときは冷やかしのつもりだったんだが…まさか美覇ちゃんを選ぶとは」

私にしか聞こえないくらいの小さな声で鉢屋先輩が謝った。
私には彼が謝ったことが1番の驚きだ。


「なんの話ですか」


とぼけた顔をする。
我ながら演技力の低さに笑ってしまいそうだ。
鉢屋先輩は何も言わずに今度は優しくぽんぽんと頭をなでた。


「三郎は美覇ちゃんのことほんと大好きだよね」

私の愛した顔は困ったように少し歪んだ。
そんな顔するくらいならやめればいいのになあ。

「先輩方が心配するほど柔じゃありませんよ。私鈍感ですから」

「だって自分が恋しているのにさえ気がつかないんですもん。話にならないですよね」



次は尾浜先輩にチョップされた。
割と本気で。痛い。



「自分のこと追いつめちゃダメでしょ」
「はい、以後気をつけます」
「お前は何でも言いたいことするっと言えちゃうからいいよな」

「何も考えてない馬鹿みたいな言い方やめてよね!」



また私の頭をぽんぽんなでながら鉢屋先輩は言葉を紡ぐ。
いつもより優しい声音が妙にくすぐったい。
後々思うことになるが、今の言葉は冷やかしとか嫌みではなくて、本音だったんだろう。


尾浜先輩はその言葉に納得がいかない様子で、鉢屋先輩のことをぽかすか殴りながら部活へと向かった。
私はいつもどおり図書室へ。
今日は本当だったら私と不破先輩が当番だけど、代打で中在家先輩が来てくれている。


今日は図書室が荒れそうだ。
中在家先輩に小平太先輩がついてくるだろうから。
いつもだったらため息でもつくところ。
でも今日は小平太先輩の登場に感謝したい。
それで気が紛れるから。



図書室に行くため2階の廊下を歩いていたら中庭に人影が見えた。
よく見知った色素の薄い髪と、綺麗に染め上げられた茶髪が目に入る。


隕石でも落ちたらいいのに。
なんて死んだ目で考えたある日の午後。



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