君の名前にアンダーライン

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「なんか最近鉢屋先輩元気ないよね」
「ね〜、この前ともみちゃんが話しかけたときも妙に素っ気なかったし」
「そうなの!私嫌われちゃったのかな」


中等部で可愛いと評判のゆきちゃんとともみちゃんが女子トークに花を咲かせるここは図書室。
鉢屋先輩は生理中なんだよ、と教えてあげようか。


「他の人もいるからもう少しだけ静かにね」
「「はーい!」」


そのかわりに注意。
彼女たちはこれまた可愛らしく返事をしてくれた。
はあ、可愛い子って憎らしいくらい可愛い。


「先輩も憎らしいとか思うんすね」
「あ、私口に出してた?」
「可愛い子って憎らしいくらい可愛い、って」
「確かに言ったみたいだね。まあ本音だしいいや」
「先輩、DVとかやめてくださいよ」
「やだなあ、そういう意味じゃないよ。」


今日はきり丸くんが一緒に図書当番。
彼が私の言葉をどう受け取ったのか甚だ不満だが、そこまでぶっ飛んだ道に行く気はない。


「あのね、三郎は生理なんだよ」


聞き覚えのある声にそちらを見るとあの不思議な毛が楽しげにゆれ、美少女2人の顔がひきつったままかたまっていた。


「尾浜先輩…今日も勉強していたんですね。」
「うん。それよりこの子たちどうしよう。かたまっちゃった」

あははと頭をかく先輩。
鉢屋先輩の名誉考えようよ、先輩…。
私は小さくため息をついて尾浜先輩をきりちゃんにパスし美少女2人の誤解を解くことに専念した。


鉢屋先輩は決して生理などではなく最近体調が悪いだけ(でまかせ)だと言い聞かせ、尾浜先輩は極度の天然だと伝えた。
その間にきり丸くんは尾浜先輩にお説教。

数分後、ようやく誤解は解けて美少女たちは帰って行き、説教が終わったらしい尾浜先輩はへらりと笑って私を見ていた。


「…尾浜先輩は部活とかいいんですか?」
「うん。俺は部活より勉強しなくちゃいけないから」
「い組の学級委員長がろ組の三郎たちや兵助に負けているようじゃ話にならないだろ」
「そういうものですか…?」



私は入学当初は割と出来る子だったため今もい組だが、そんなこと1度も考えたことなかった。
テストの順位はまあやれるだけやって良かったら喜ぶし、悪かったら私の実力だと受け入れる。
それがたとえろ組に負けている順位であっても悔しいとは思わない。

そのろ組の誰かもしくはは組の誰かが入学当初に頭が良くなかっただけ。
彼もしくは彼女は遅咲きだったと考えるしかない。


「ということは鉢屋先輩や久々知先輩は文武両道なわけですか」
「そうだよ。2人とも器用だからね」

そう笑う尾浜先輩を見て切なくなるのは私だけだろうか。
元々の才能に追いつこうと努力をする。それでも横に並ぶ以上にはなかなかいけない。
目尻があつくなる。
おかしい、こんなの私らしくない。


「え、ちょっ美覇ちゃん!?」


泣き始めた私に戸惑う尾浜先輩。
どうしたのかと駆け寄ってくるきりちゃん。
そうして運悪く中在家先輩を捜して来ただろう小平太先輩が図書室へ入ってきて尾浜先輩を優しく私から離した。


「尾浜、お前が何をしたかは知らんがこいつが哀しむと長次も哀しむ。金輪際美覇と関わるな。他のやつらにも言っておけ」


私は誤解をとく暇もなく小平太先輩に担がれ図書室を退室させられた。
それからはただ泣きやもうとして努力はした。
けど、嗚咽はもれ廊下に意に反して響き渡った。


しばらく尾浜先輩たちに関わるのはやめよう。
なんだか気持ちが不安定になる。
中在家先輩や小平太先輩に関わるうちはやめよう。
幼い頃から私を支えてくれる2人に心配させるのは嫌だ。

私は都合のいいやつだ。


ああわかった。
私が哀しくなった理由。
私も尾浜先輩も普通なのだ。
努力してようやく特殊、特別に追いつける。
なんだか尾浜先輩は自分をみているようで哀しくなった。

これでも不破先輩の隣に並べるようにと努力したのだ。
でも無理だった。
何故って、




私は特別で特殊な女の子じゃないからだ。




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