君の名前にアンダーライン

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尾浜勘右衛門は考える。
なぜ彼女が泣き出したのか。
考えても考えても平凡を嘆いた、としか考えられない。

彼女は平凡だろうか、勘右衛門は自問自答したが答えはNOだった。
あの七松先輩や中在家先輩と仲良くしているのだから平凡なわけがない。
ではなぜ。


うどんを食べながらまた悩み始める勘右衛門を見て俺はまるで…


「…雷蔵みたい」


と呟いた。
するとその途端、食堂の椅子をひっくり返す勢いで勘右衛門は立ち上がった。


「それだ!ハチ、よくやった!」

なんだ、俺は忠犬ハチ公か。
頭をぐしゃぐしゃに撫でられ(殴られ?)飯を食っているバヤイではない。

「何がだよ」


「美覇ちゃんが泣いた理由」

「は?」


話が唐突すぎてわけがわからない。
雷蔵と美覇がどうしたって?
勘右衛門にとりあえず座ってもらい人の目が少なくなってから話すことにした。


「実はあの子雷蔵のことが無意識に好きだったらしくて…」


要約すると雷蔵が好きで雷蔵に好かれるような特別な人にはなれなかった、そして少し別の方面ではあるが勘右衛門の哀れさと特別ではない自分の哀れさを重ねてしまったのかもしれない、とのことだった。
なるほど、勘右衛門を誉めたくなった。
探偵にでもなればいいんじゃないか。


「なんか声かけてやりたいな、ていうか俺体育祭実行委員会で一緒だったし話しかけても変じゃないよな」


勘右衛門に若干疑問形で投げかけると表情を曇らせた。
なにか問題があるらしい。


「さっき俺が泣かせたって言ったじゃん」

「あー、うん」

「あのときたまたま七松先輩が来て金輪際美覇ちゃんに俺たち全員、近づくなって言われちゃった」

「はああああ!?」


今度は俺が立ち上がるのと同時に勢いあまって椅子をたおした。
勘右衛門のときより沢山の人の目がこちらに向き耐えきれず座った。
恥ずかしい。


それにしても、バックに七松先輩は辛いな。
もしお言いつけを守らなければえらいことになるに違いない。
早く三郎たちにも伝えねえと。

今三郎と雷蔵は図書室で当番をしていて兵助は委員会で呼び出しをくらい職員室だ。
食器を片付けようと立ち上がる。
もちろん視界も広くなり、俺は食堂の隅で喋る珍しいコンビを見つけてしまった。
そう見つけて『しまった』なのだ。

「七松先輩、今後美覇と関わらないでください」

「傷つけているのは貴方のほうだ」

「たった数年の付き合いで何がわかるんです?」



あの、あの綾部がこれほどまでに饒舌に喋る姿を誰が見たことがあろうか。
しかも相手はあの七松先輩。
先輩だって引き下がる訳ないだろう。


「…そうか。悪かった」


俺は某お蝶婦人のような顔になった。
な、なんですって…。
勘右衛門を見ると俺よりひどかった。
ふきだしそうになるのを抑え、もう少し綾部たちを見る。


「はい、そうしてください。滝夜叉丸は建前上来ませんでしたが相当怒っていた、とだけ伝えておきます」


会釈をして立ち去ろうとした綾部と不意に目が合う。
やっべえ。


何故かこちらに歩いてくる。
これは死亡フラグがたっているのかそうなのか!?


「竹谷先輩、尾浜先輩、美覇のこと励ましてやってください。まだ修身しきれていないので」

「不破先輩には近付かないよう言っといてください。では」



なんとか許されたらしい。
むしろ励ましてくれ、だとよ。
え、これ七松先輩報われない。

「俺、雷蔵のとこ行ってくる」

「いってらっしゃい。俺は兵助に伝えてくるわ」


口がたつ勘右衛門が図書室へ、俺は説明力のない話でもある程度理解してくれそうなやつの方へ。


食器を片付け、俺たちはそこで分かれた。



以上竹谷八左ヱ門からの報告でした。
兵助、わかったか?



「うん、綾部が立花先輩の直属の後輩な理由がよくわかった」



あぁ…うん。





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