君の名前にアンダーライン

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どうすればいいんだろう。


彼女は見かけるたび毎回と言っていいほどその顔をしている。
友達が周りにいれば別だが1人のときは特にだ。
眉間にしわをよせ思い悩む彼女に声をかける者は少ない。


その中でも私が見たことあるのは滝夜叉丸や綾部などの同じクラスのやつらばかり。
今年に入ってからは1年は組と一緒にいるところをよく見かけるがそれ以前は他学年と同じ風景に身をおいていることは少なかったように感じる。
…雷蔵や七松先輩、中在家先輩を除いて。


私は中学からここに入った。
だからそれ以前のことは知らない。
ついでにいうと中学時代は雷蔵たちとしか関わっていなかったため他学年のことは何も知らないに等しかった。


そんな中、唯一顔を知っていたのが図書委員で無愛想な美覇ちゃんだった。
たまに雷蔵のところに委員会の連絡をして、そしてあるときから嬉しそうに笑うようになった。
なるほど、雷蔵のことを好きになったか。
そのときから美覇ちゃんは雷蔵のことを"先輩"ではなく"不破先輩"と呼ぶようになった。


八左ヱ門は愛想良くなったなと言い、雷蔵はずーっと前から可愛い後輩だよなんておどける。
いや待て。
今は確かに可愛い後輩、と言われても否定はしないがあの顔は恋だろう!
気付いてやれよ雷蔵!
八左ヱ門は熱血馬鹿だから許すがお前はちがうだろうが。
半目で睨んでやると雷蔵は少し目を伏せてそれからごまかすように笑った。


気がつかないわけがないか。
雷蔵だからな。
誰より人の気持ちに敏感なお前だからたくさん悩んでしまうんだ。
どうしたら傷つけないか、どうしたら泣かせずにすむか。


「僕好きな人がいるんだ」

「へえ。あの後輩ではないんだな」

「…うん。同じ学年の子」



可哀想に。
半目で雷蔵の恋愛話を聞きながら同情した。
途中参戦の八左ヱ門は「あいつ香水くさい」と犬らしい意見を述べてくれた。


確かに雷蔵の好みがあれだったとは驚きだ。
茶髪で化粧をしていて、キャーキャー言っている。
耳障りだし、すっぴんを見たら誰かわからないんじゃないか?あれは。
外見だけならあの後輩のがお似合いだ。


「彼女には彼女の良さがあるんだよ」

「わっかんねえなー、雷蔵の好み!」

「…まったくだ」



珍しく八左ヱ門と意見があう。
ただこいつの場合はにおいがきつくて化粧してるやつが嫌いなだけだろうが。



「あの、不破先輩!」


ある日振り向くとあの後輩がいた。
今日も黒髪をゆらしている。
けっして綺麗だとは思わないがいい色だなとは思う。


「なんだい?」


雷蔵の笑顔を真似る。
そしてまたこいつは私と雷蔵を間違える。
本当に好きなのか少しこいつの目を疑う。


「今日の帰りの図書当番は私ときり丸でやりますから不破先輩は大丈夫ですよ」

「わかった。ありがとう」


「いえ!では」


そう言って後輩は走り去っていく。
嬉しそうに笑い頬を紅く染める彼女に罪悪感がわく。
私は雷蔵じゃない。
顔は同じだが中身は何1つ違う。
なのに私は同じ顔だからという理由で彼女を弄んでいるに等しい行為をする。
ごめんな、雷蔵じゃなくて。



「あれ、三郎。なに廊下で突っ立ってるの」

「後輩から伝言を預かっていたんだ」



何度もこうやって雷蔵に伝えた。
そのたび同情する。


雷蔵に付き添って買い物に行った後なんかは心の底から同情した。
酷なことをした。



「鉢屋先輩!」


最近はこちらの名前で呼ばれるようになってきた。
もしかしたら次は雷蔵を私と間違えていたりするのか。
雷蔵も大変だ。


「雷蔵!三郎!話があるんだ」


図書室の当番を終え教室に帰ろうとしていたら勘右衛門が走ってきた。
話を聞き終わると雷蔵は複雑そうな顔をしてふらふらとどこかへ行ってしまった。


「俺、美覇ちゃんとこ行くけど三郎どうする」

「私は教室に帰る。特に言うこともないしな」


勘右衛門とそこで別れ教室の方向に足を向ける。
ぱっと窓の外に目を向けると食堂あたりをうろうろしている美覇ちゃんが見えた。


どうしよう、の顔じゃない。
どうにかしなきゃに変わっている。
雷蔵に間接的にふられて落ち込んだ、だけでは終わらなかったみたいだ。
この前ちらっと目にした図書館でのこともいい刺激になったのかもしれない。


あの子には綾部や滝夜叉丸がいるから何があっても引き上げてくれるだろう。
それにバックには七松先輩や中在家先輩がいる。
美覇ちゃんはきっとこれからいい方にいい方に転がっていく。


私には雷蔵とくっつかないほうが彼女にとって幸せだと最近は思うようになった。


まあ、あの表情を見れば誰でも思うことだろうけど。




何があったかは知らないが、頑張れ。
今が踏ん張りどころだって私は思うよ、美覇ちゃん。





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