緋色の告白

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05欲ばり


マクゴナガル先生にそろそろ将来のことを考えなさいと言われた。
就寝時間間際で人の少ない談話室のソファに座り言われたとおりに考える。
今の成績だと闇祓いは無理。
魔法省も難しい。
ダイアゴン横丁のお店で働くのは楽しそう。

なんて普通に悩んでみたけど私にはうってつけの就職先があった。
もちろんグリンゴッツだ。
私は運良く手が小鬼で人間も小鬼も嫌いじゃない。
小さい頃から母に言われていたのは人と小鬼の架け橋になってね、だった。
昔はぽかーんとしていて1、2年生のときは人間なんてと思っていた。
今はもう母が言う架け橋になろうと思えるようになった。
母たちに親孝行がやっと出来ると思うと自然に口角があがった。


「上機嫌だな、ナマエ」


笑顔のチャーリーが現れ私の隣に座ったから上機嫌の理由をかいつまんで話した。
するとだんだん曇っていくチャーリーの表情。
どうしたのかしら。
暗い話は特にしていない。
むしろ親孝行なんてハッピーな話題じゃないか。


「親孝行かあ…」


そう呟いたきりチャーリーは口を引き結んで喋ろうとしなかった。
詳しくききたいところではあったけれど将来の話となればまた別だ。
とりあえず近くに寄ってみる。チャーリーは頭を私の肩に預けてきた。


「自分のやりたいことがあるんだ、でもそれは家族に特に両親への負担になる」

「もう一方は自分的にはわりといいかなと思う。それに両親を喜ばせられる」

「でも俺はまだ選べきれないんだ」

「俺だってビルみたいに母さんと父さんに楽させてやりたいよ。出来ることなら喜ばせられる方をとりたいさ」


チャーリーの目から涙が1粒落ちて私の肩に染み込む。
ちゃんと自分の意志を持っているんだからいいじゃない。
励ましてみたけれどチャーリーは頷いてくれない。
チャーリーがもたれているのと逆の手で頭を優しく撫でる。
彼の涙は加速するばかりで初めて見る彼に狼狽えてしまう私が情けない。

「チャーリー、またこのことは先になってから考えよう。まだ2年もあるんだから」


せっかく声をかけたのに彼を見るとすっかり夢の中。
ため息をつくほかない。
出来る兄がいるのも大変ね。
チャーリーだって十分すぎるほど出来る子のはずなのに。



監督生、首席、容姿端麗、人望も厚い。
少しだけビルが恐い。


「おや、チャーリーはおねむかい」

「!、ビル。そうなの、もし良かったら彼を寮まで運んであげて」


ひょこっと現れたビルは私の肩にもたれて寝ているチャーリーを不思議そうに見ている。
恋人でもないのに変、かな。


「いいよ。ちなみに…」


ビルが一旦口を閉じる。
そして大きく息を吸った。


「君たち恋人なの?」
「違う!」


なんとなく予想できた質問に思っていた以上の大声が出てしまった。
寝ていたチャーリーも身じろぎをする。


「…ナマエ、うるさい。ビルもわかりきったこときくなよ」


おやすみ。
そう言ってチャーリーは立ち上がり寮に入っていってしまった。
残された私たちはただ呆然とするのみ。


「ナマエ、これからもチャーリーと仲良くしてやってね」

「もちろん。チャーリーは大切な友達だもの」

「そういってくれる友達ができて俺も安心だ」


さりげなく私の頭を撫でるビルはやっぱりかっこいい。
それに大人だと思う。


「ビル、今から言うことチャーリーには言わないで欲しいんだ」


チャーリーが就職先について悩んでいたこと、ビルの存在に少しコンプレックスを抱いていること。


「ビルもきっとたくさん我慢していると思う。自分のしたいことをしないで生きているかもしれない」

「ただ、チャーリーの我がままに今回だけ付き合ってあげてほしい」


人は幸せになると我がままになる。
欲があふれてしかたがない。
しかし相手はチャーリーなのだ。
私を救ってくれた唯一の友達。
これは言い訳だとわかっている。
結局どうするかは本人が決めることだ。
それに兄弟なのだから少なからず助言はするだろう。

それを止めさせようとするなんていけないことをしているのかな。


ビルは何も言わずにさっきまでチャーリーがいた私の隣に座った。



難しいね兄弟

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