緋色の告白

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08この距離感を愛したい

「ビル、あそこで貴方に声をかけたくてうずうずしている子がいるよ。話しかけてあげたら?」

「ここは図書室。マダムピンスになにを言われるかわからない」

「…いじわるだね。チャーリーを見習って女性に優しくするべきだよ」

「チャーリーはチャーリー。俺は俺」

「いったい貴方はいくつなの」

なんだか最近よくビルが図書室に現れる。
そして以前よりわがままだ。
卒業前でたくさんの女の子が告白をしたいだろうにここまで本の虫だとできるものもできない。
皆が可哀想だ。


「ナマエ、そこの薬草の名前綴り間違ってるよ」

「ねえビル。やっぱりこのままじゃだめ。私みたいなのといちゃだめ」


そう言って私はビルの荷物を抱え立ち上がり図書室の外へ置いた。
ビルは無理矢理引きずって外へ追い出す。
すると女の子はすぐさま図書室の外へ小走りに出て行った。


誰もまさか私みたいな滑稽なやつとビルが付き合っているという考えはもたないらしい。
実際付き合っていないが。
ビルはかっこいいと思うしこの前みたいに紅くなることもある。
しかし、それが異性へ抱く恋愛感情かと聞かれるとなんとも言えない。
チャーリーなんかははっきり友達と言えるんだけど。


告白されるビルに何も思わないのだからやはりこれは恋愛感情ではないんだろう。
いや、もしかしたら絶対に断るとわかっているからそうなのかもしれない。
なんとも幸せな頭だ。
実は、彼は彼女を好きかもしれないのに。



「ナマエ、珍しいね。今日は1人なんだ」

「イェレ!貴方こそ珍しい。図書室に来るの初めて?」

「…バレた?6年通ってるけど初めてなんだ。今まで教科書だけでなんとかなっていたんだけど、闇祓い志望だからさ、難しい魔法薬学のレポートださないといけなくて資料がね」


そう言いながら腕の中にある分厚い本をイェレは叩く。
すると多量の埃が舞い彼はむせて遠くからマダムピンスの咳払いがきこえてきた。
彼と目があって2人で声を出さず笑う。
彼は手を振って遠い席につき真面目な顔をして羊皮紙をひらいた。
彼のファンがここにいないことが勿体無い。

彼もビルくらいモテるから誰か居てもいいものだけど、きっと彼が言っていたようにあまり来る場所ではないからここは女の子たちのチェック外なんだろう。
まあ私としては五月蠅くなくていない方が助かる。
図書室はそういう場だ。
静かで本の温もりだけがある冷めきった場所。



だから私はビルを追い出したのかもしれない。
告白やビルの存在より私は場を優先させたのだ。
たぶんこれは私の育ち方に理由があると思う。


人と接するよりもグリンゴッツの中を探検することが好きでグリンゴッツ内で泣き叫ぶ同年代の子どもたちや不平不満をもらす魔法使いや魔女が邪魔くさいと幼いながらに思っていた。
ゴブリンたちは仲間の悪口は言わない。
人間へは…以下省略。
約束もやぶらなければ不平や不満を嘆きもしない。
諦めているともいうが。


こういう環境、考えで育ったから可愛くない性格になったのか、はたまたこの何年かの経験がそうさせたのか私にはわからない。
ただ、今わかったのは私に恋愛感情が存在していないことだけだった。


きっと恋をすれば図書室よりクィディッチよりイェレよりチャーリーより、その人が大事になるでしょう。


私の場合、今もしこのビルへの気持ちが恋だというなら私は他を1番に想って行動してしまっている。
これってたぶん違うじゃない。


ああ!
こんなこと考えている暇はない!
私は普段使えそうな呪文を探しにきたのよ、そうこのやけに分厚い呪文集から。


さあて服のしわをのばすのはなんて呪文かしら。




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