緋色の告白
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12いつかは
6年生の生活は以前とそうかわらない。
ビルにひと月に1回手紙をだすことくらいが唯一変わったことだ。
そして今日常の1つが終わりを迎えようとしている。
「今日が最後の試合だ」
「イェレやアンナはこれで選手をやめることになる」
「悔いの残らない試合にしよう」
チャーリーはいつも短いながらに試合前に話をしてくれる。
それを聞くと頑張ろうという気持ちになる。
「ナマエ、イェレと最高のプレイしてくれよ」
「もちろん。私もこれが最後の試合になるわ。有終の美をかざらなきゃね」
「…そうだな」
チャーリーとお互いに肩をたたく。
先に飛び出したチャーリーを見てからイェレと拳をぶつけ、私も飛び出す。
「皆よく頑張った。まさかあんなにスリザリンが点をとってくるとはな…ウッドのせいじゃないぞ。スニッチはとってやったからざまあみろって感じだけど」
「俺はこの試合、負けたけどすごくよかったと思う」
「イェレ、アンナ今までありがとう」
チェイサーのアンナは大泣きしながらチャーリーを抱きしめて、チームメイトを順々に抱きしめていく。
イェレはチャーリーから少し話をしてハグしたり握手したり。ウッドはアンナにもイェレにも語りすぎて皆にひかれていた。
「ナマエ、本当に今までありがとう!あたし、貴女と友達になれて本当に良かったわ」
「アンナ、ありがとう。これからも元気で頑張って」
アンナがあまりにも泣くものだから私も目が潤む。
2人でお互いにぶさいく!と言いながら泣き笑った。
「イェレ、お疲れ様。3年間、私のパートナーでいてくれてありがとう」
「こちらこそ。俺、こんなにクィディッチを好きになるなんて思ってなかったよ。楽しい時間をありがとう」
握手をしてハグもした。
イェレがいたからのクィディッチだったと本当に思う。
きっと私は一生公式の試合にでることはない。
皆はそこで一旦解散になった。
だいたいは寮へと歩き始めたが私は競技場にむかった。
「お世話になりました」
1人入場口に立ち、ピッチに頭を下げる。
次は上からしかここを見ることが出来ないのが勿体無い。
下からのが眺めがいいのに。
ピッチの真ん中まで歩いていって仰向けに寝転がる。
空は曇っている。
青空はみえない。
「…ナマエ?」
入場口から声がした。
顔をむけると興奮気味なジョージがいる。
私は手招きをして隣へとうながす。
彼は私の隣に座った。
「今日のナマエ、すごくかっこよかった!ビーターがあんなにかっこいいって知らなかったよ!」
「そうでしょう。ビーターはとても素敵なポジションよ、ジョージはやりたい?」
「やりたい!」
元気よく言ってくれたのに何故か彼はうなり始めた。
「でも僕とフレッドがビーターになったらナマエはどうするの?」
「引退よ。パートナーもいないしね」
「駄目だよ!もったいない!」
私は曖昧に笑う。
そう言われても私はどうせ引退だ。
チャーリーになら直球になにを言われてもやめると言えるけど彼相手にムキになるのも大人げない。
私はごまかすしかないのだ。
「来年は楽しみね。ジョージとフレッドが入ってくるんだから。チャーリーが言ってたわ、2人ともクィディッチがうまいって」
私がそれとなく誉めると照れたように頭をかくジョージ。
まだまだ可愛いわね。
そして引退の話も忘れたみたい。
起き上がって頭を撫でてやればへにゃりと笑う。
パースにはない表情だなあと思った。
最近パースは私が頭を撫でようとするとすぐによける。
ひどいと思わない?
ビルはパースについてはそういう年頃だからというコメントをよせてくれた。
そうか…反抗期なのか。
お姉さん、少し寂しいなあ。
「…本を読むのに集中させてくれないか」
「パースの物真似下手よ、チャーリー」
「別に真似したわけじゃないよ。じっと見られると気が散る」
「チャーリーが本読むの珍しいなあと思ったのとパースに似てるなあって」
「俺が似てるんじゃなくてパースが似てるんだ。あと俺も本くらい読む」
「あら、脳みそまで筋肉の幸せな人だとばかり」
静かな談話室に打撃音が響き渡り私の頭には小さなたんこぶができた。
いつかはこの楽しい時間さえ終わってしまうのだと思ったら笑顔の裏で悲しくなってしまった。