緋色の告白
□21
1ページ/1ページ
21崩れ落ちるパズル
「エピスキー」
「いった!ナマエ、もっと優しく」
「痛いよ!」
「私これでもこの呪文上手なほうなんだけど…」
「殴られただけで良かったな、2人共。魔法を使われていたらマダムポンフリーにまずい薬盛られるところだったぞ」
「別にそれくらいどうってことないよ」
「母さんに連絡がいっていたらどうなっていたか、マクゴナガル先生に感謝しろよ」
「「…。」」
談話室の一角でチャーリーの一言に可愛い可愛い双子は2人そろって口をつぐむ。
殴られたらしい痛そうな打撲の痕に呪文をかけていく私は休む暇もない。
どうしたらこんなことになるんだか。
反省の色をみせないで立っている2人の前に屈んで治療する私の後ろでチャーリーがため息をつく。
双子が顔を見合わせ互いに頷いた。
「何はともあれ貴方たち、綺麗な顔に傷をつけるなんて駄目よ」
私の一言に2人は歯切れの悪い返事をする。
2人には2人なりの理由があったのだろうなとは薄々感じていたがこの反応を見るに私関係のことでスリザリンの子たちと言い争いになったのかもしれない。
いや考えすぎだ。
何を今更私に言うことがある。
そして私は今一体何を気にする必要がある。
この白くて細い髪の毛も、妖精のように尖った耳も、怪物のように恐ろしい手も皆もう何か言われてきた。
どん底を見たことがあるのだからこれ以上恐れることなんか何もないじゃないか。
自意識過剰もここまで来ると病気だ。
早く治さなければいけない。
「ナマエ、難しい顔してる、僕たちのせい?」
「ジョージ、あんまりそういうこと言うとチャーリーが何か言うぜ」
こそこそと双子が話す。
チャーリーはそういうことに関して目敏い。
「フレッド、ジョージ、ナマエまで困らせるなんて言語道断だ」
「ほらな」
「…あぁ。本当に面倒くさいことになった」
「チャーリー、私は困ってなんかないわ。もうお説教は終わり。貴方だって2年生の頃はやんちゃしていたんじゃないの。許してあげましょうよ」
一瞬チャーリーの顔が歪んだ。
しまった。
私はそれを見て顔をこわばらせる。
私は1、2年生のチャーリーを知らない。
それが親友として唯一の不安要素であるのは認めざるをえない。
しかしその2年は私にとってはどう頑張っても外には出られなくて、むしろあの2年があったからこそ彼と知り合えたなくてはならない空白なのだ。
だからその2年間の彼を"まったく"知らないのは仕方がないのだと思い込もうとするがどこかやはり気にしてしまう。
この話題には触れないようにと気をつけていたはずなのにまさか自分で触れてしまうとは。
「え、チャーリーとナマエって2年生のときは仲良くなかったの?」
こういうとき鋭いのはフレッドだ。
ジョージはその発言を聞いてさらにぐさりと刺してくる。
「僕、1年生から仲がいいんだと思ってた。だからこんなに仲良しだと思っていたのに」
「…もうこの話は終わりだ。今日は2人とも1日談話室から出ないこと、いいな」
「「…はーい」」
一段声の低くなったチャーリーにさすがの2人もおとなしく返事をした。
そして2人でこそこそ話しながら寮へ入っていった。
私へ「治療、ありがとう」と言うのも忘れずに。
チャーリーは2人が寮に入るまでを見届けると顔をしゃがみこんだままの私にむけた。
厳しい顔つきがへにゃりと困った笑顔に変わる。
「ごめん。本当、困った弟たちだ」
「いいえ。気にしないで」
何がとは言わないのがチャーリーらしい。
彼は続けてこう言った。
「何を言っても慰めにしか聞こえないかもしれないけど、聞いてほしい。友達に年月なんて関係ない。最低限の言葉でも通じ合える、それが本当の友達だと俺は思うよ」
「それに親友だとしても知られたくないことは誰にでもある。無理をして言う必要はない」
「ありがとう、チャーリー」
「俺にだってナマエには言ってない秘密はある。おあいこさ」
「あら、そうなの。知らなかったわ」
彼がこちらに歩み寄り手を差し出してくれたからそれにつかまって立ち上がる。
その途中手をぐっと引かれバランスを崩した私を彼が受け止める。
というかこれは、抱きしめられているらしい。
彼は私の首に顔を埋めている。
急な展開に私の思考回路はショート寸前だ。
そこにいる下級生も穴があきそうなほどこちらを見つめている。
とりあえず私は口を開いた。
「チャーリー?」
「ごめん。我慢できない、俺」
いつもより耳の近くで聞こえる声に緊張する。
いつかに彼とこれくらいの距離で話したときより幾分低く落ち着いた声は私に彼を異性として意識させるのに充分な要素になっていた。
「…どういうことかよくわからないのだけれど」
「言いたくない秘密ってやつ」
「そう。何か嫌なことでもあったのね。大丈夫、大丈夫私が何でも受け止める」
きっと双子を怒ったり、何かまた別のことで疲れているのだ。
彼は嫌なことを私に話したがらないから。
そう思えば緊張は消え去った。
まるで母親のような気持ちで彼の広い背中を撫でる。
耳元でため息が聞こえた。
よっぽど疲れているのだろうかと心配になる。
「まあ、いっか」
そんな呟きが耳元から聞こえた。
抱きしめる腕の力が一段と強くなる。
私も同じように抱きしめ返した。
チャーリーは私が苦しんでいたら出来る限りのことをしてくれた。
だから私もそうする。
フェアだとかフェアじゃないだとかそんなことじゃなくて、ただこの人には貰っただけの気持ちをきちんと返したい。
ただその均衡が崩れたらと思うと恐い。
彼の気持ちが多い分にはいい。
私が返せば済む話だからだ。
だけれども私の分が多くなったらその先はわからない。
それが恐くて私は彼への気持ちを押しとどめていたりする。
もしかしてこれは友達に抱く感情ではないのかしら。
これが恋や愛なのかしら。
それで私はビルによそ見し始めたんだ。
抑制できないチャーリーへの気持ちを処理するために。
私は誰とも、特にウィーズリー家と幸せになることなんて出来ない。
そんなことわかっていた。
でも、でも夢を見たかったのだと思う。
「ごめんなさい」
チャーリーにすら聞こえるか聞こえないかという呟きだった。
自分の気持ちに気付いてしまった今、彼のそばにいるのが恐ろしくなった。
まわしていた腕をはなし、彼の胸板に両手を置いて突き放した。
「ナマエ!」
「ごめんなさい」
私は寮に駆け込んだ。
後ろから聞こえたチャーリーの声には謝罪だけを返した。
今の私にはこれ以上は出来なかった。