みじかいの

□悲しきかな
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急に同じクラスの友達から電話がかかってきた。
それにまず驚き、もしもしと出ると相手は大声で喋りだす。そっちにも驚いた。

あの彼女が取り乱していたのだ。驚かないわけがない。


「なに、どうしたの?」

「とにかく、学校の体育館に来て!」

「はあ?、リコ、せっかくの休日を潰すなんて良い度胸ね」


言い終わる前に電話をきられた。
畜生。



私はすぐに制服に着替え、自転車をかっ飛ばした。
白い息が視界にゆれる。
数分もすれば学校が見えた。
私は息も絶え絶えながら体育館の扉をあける。
冬だからさすがに寒く閉めきっているのだろう。


「リコー、来たよ」


「先輩、赤司くんはどこにいますか」



靴をぬぎ体育館にあがる。
リコに話しかけるとその奥にいた水色の彼が話しかけてきた。


「黒子くん、赤司くんはここにはいないよ」

「…?なんでですか。ここは」



「帝光中学バスケ部ですよね」


ああ、なんだか小さいと思ったのはそのせいか。




「そうだね、黒子くん。きーちゃん呼ぼうか。あとみどりん、ガングロとさつきちゃんも呼ぼう」

「先輩、なんで泣いているんですか」


「君が羨ましいから、かな」




黒子くんはたまに何故か中学時代の姿に戻る。
それも中2くらいのときに。
今はキセキの世代と呼ばれバスケットボール界では有名な彼らと1番仲が良かった時期。
私はそんな彼らを1つ上の先輩マネージャーとして見ていた。

中3になった彼らのもとを夏休みに訪ねたことがあった。
そのときも彼はこうなっていた。
私としては何も変わらない黒子くんにしか見えないのだ。
だがさつきちゃんは違うと泣き、喚いた。
そして彼女は体育館から逃げた。

男子勢がその黒子くんの相手をしている間、私は泣きながら体育館裏へと走っていってしまったさつきちゃんを追いかけた。


「私もあのときに戻りたいよ、テツくんだけズルい」




その後立ち止まりうずくまったさつきちゃんがもらした黒子くんへの唯一の願望と妬みだった。

意味がわからなかった、けど今の彼らを見ればなんとなくわかる。
私も戻りたくなった。
あの頃に。


「先輩、黄瀬くんたちは今どこに?」

「きーちゃんは仕事で神奈川、みどりんはラッキーアイテム探してて、ガングロくんとさつきちゃんは山に蝉とりかなあ」

「冬に蝉とりは無理ですよ」

「幼虫とりだよ…きっと。赤司くんは家族で京都に旅行。むっくんは秋田のおばあちゃんちに行ってるんだって」


羨ましいという言葉を拾ってくれなくて本当に良かった。
聞かれたらたぶん何も言えなかった。


「何か嫌なことでもあったんですか?先輩、泣いたり笑ったり…不安定な感じがします」

「うーん…どうだろ。ちょっととりあえず来れそうな人に電話してみるね」


体育館の外にでて、まずきーちゃんに電話をかけた。
なぜか彼の声が今ばかりはききたくなった。


「もしもし」

「もしもし黄瀬くん?中学時代にマネージャーやってた」

「先輩、久しぶりっス!」



きーちゃんに事情を話すとすぐに来ると言ってくれた。
あとの子たちは来ない方がいいだろう、きーちゃんがそう判断した。


「先輩、この人たちは…」

「練習試合に来た人たちだよ」



「赤司くんたち遅いですね」











私は何も知らない彼に一言も返事をしてやれなかった。
まるであの日のさつきちゃんのように泣き崩れた私に黒子くんは慌て、駆けつけたきーちゃんが私を慰める。



いつのまに、彼らはこんなにも大きく、そして離れてしまったんだろう。

私には何もわからなかった。知らなかった。


誰かどうか教えて。


悲しきかな、無知なることよ


end

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