みじかいの
□みんな知ってる
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私は彼が好きだ。
その恋が叶わないのは目に見えている。
だからむしろ私は皆に話してしまう。
私は彼が好きだと。
そうすると皆、あぁ憧れねと勝手に思ってくれるのだ。
私から手の届かない人物だ、そう皆認識しているのがよくわかる。
ミーハーな子しか手を出さないだろうあの子。
ハッフルパフの地味な私には接点も関係もないグリフィンドールの男の子。
出会いはいつだったかに私が落としたイラクサの入った瓶を拾って届けてくれたとき。
もっと可愛い何かなら話も盛り上がるのに可愛げがないのがまた私らしい(と皆が言う)。
「いつも授業で1番だよね」
「それによく発言している」
「いつも凄いなと思っていたんだ」
彼がそう言ってくれたのをよく覚えている。
私の魔法薬学と薬草学にだけ発揮されるがり勉を先生以外で2人目に誉めてくれたから。
スプラウト先生はよく誉めてくださるし、スネイプ先生もときどき「よく勉強している」と言ってくださる。
でも友達はそれより楽しいことがあると言わんばかりに談話室のすみで勉強する私を尻目に勉強以外の何かをしていた。
「誉められただけで好きになるなんて単純だねぇ」
「本当、自分でもそう思う。まあ男性に免疫がないのも関係あるかもしれないね」
「いい性格してるのになーんで寄ってこないのかな」
「所詮顔なんだって、この前ハッフルパフのマドンナ様がいってらした」
「アハハ、何それ!調子乗ってるよ、あの人」
私が羽ペンをかりかり動かしながら楽しくお話しているのは2つ年下のトンクスだ。
彼女は私を誉めてくれた初めての人。
「あ、そういえばさこの前借りてた本、今日が返却日じゃない?」
「あ゛っ…」
まずい、という顔をした私にトンクスは苦笑いしながらいってらっしゃいと言った。
私は彼女に手を振りながら温もりあふれる談話室から冷たい廊下へ出た。
「次からは気をつけてくださいね!」
「すみません…」
マダムピンスに苛立たれながらもぺこぺこしながら返却手続きをすませ、棚に戻す作業にうつっていた。
3冊借りていたのだがそれぞれ別々の場所(高いところから低いところまで)に陳列されていたはずだからこれは時間がかかりそうだ。
「ロコモーター」
そう言いながら杖をあげる。
本はその軌跡を辿りながら本棚へおさまりかけた。
「呪文学も得意なんだね」
突然後ろからかけられた声に驚いた私は杖から意識を離してしまった。
しまった、と上空を見る。
私は呪文学が大の苦手で意識を極限まで杖に集中させないと成功しないのだ。
案の定ひゅっと本が風を切りながら落ちて来るではないか。
「ウィンガーディアムレビオーサ!」
ここが図書室だということも忘れ大声で呪文を叫んでいた。
だがその甲斐あって本が落ちることは免れた。
マダムピンスのお説教は受けることになったが。
「次からは気をつけてくださいね!」
「すみません…」
本日2度目の平謝りに隣で彼がくすくす笑った。
あまり親しくはないから怒ったりはしないがちらりと彼を見た。
「ごめんごめん。さっきもやってたなあと思って」
「…。」
さっきのも見られていたなんて恥ずかしい。
顔を両手で覆いながらため息をついた。
「ごめん。あそこで声をかけたのは賢明な判断じゃなかった」
「いえ、私が呪文学を苦手なのがいけないんです」
「そうなんだ。てっきり得意なんだと思ったよ」
「なんたって魔法薬学が得意だから他も出来るのかなって」
確かに通例では頭がいい人は魔法薬学が得意でかつ他でも良い成績を収めている。
私は例外の変わった生徒なのである。
「私の家は薬屋で、薬の調剤を見たり漢方薬の調合は見たりやったりしていたから、得意なだけです」
マグルの母は薬剤師で漢方薬も別に勉強したらしくお手のものだった。
魔法使いの父は魔法薬の第一人者でたまたまマグルの薬屋を偵察しに来たときに母に出会い、その手際の良さと母の笑顔に惚れてしまったそうだ。
そんな2人の子供は薬の知識を自然と覚えた。
それが私である。
そして好きなことでは誰にも負けたくない私の性格もあいまって得意科目となったわけだ。
「なるほど。将来はそこを継ぐのかい」
「いえ、まだそこまでは考えていません」
「継ぐことになったら教えて!絶対行くから」
彼はその後用事があるらしく図書室から出て行ってしまった。
私も同じように図書室を出て談話室へ戻る。
トンクスに嬉々としてさっきの出来事を話すと良かったねと言ってくれた。
彼女でさえ本気だとは思っていない。
私の恋はいつも中途半端。
好みだけはミーハーでいっちょ前。
男の人とはかたい雰囲気で喋ってしまうのは悪い癖。
相手にアピールする気がないと皆は思うらしい。
私はこれでも話すことは頑張っているつもりなのだが。
化粧もしないし隈すら隠さない。
私が彼氏を作れないことなんて皆知っているのだ。
さすがに高学年にもなれば自分でだってわかる。
私に色恋沙汰はありえないし、似合わない。
そう自分に言い聞かせた。
トンクスに「彼とはどう?」ときかれ、「もう好きじゃないの」と返せば「そう」と存外素っ気ない返事だった。
やっぱり誰だって私みたいなのと彼はくっつかない、そうわかっている。
もう彼への片想いはやめた。
私が夜中に天文台で大泣きしたのは私しか知らない。
そんなに簡単に諦めがついたら困らないのだ。
私はどう足掻いても彼が好きで彼女がいたっていなくたって関係ない。
好きで好きで胸がはちきれそうとはよく言ったものだ。
「好きなのになあ…」
小さく呟いた言葉は風の音にかき消された。
みんな知ってる。
わたしも知ってる。
彼が私に興味がないことくらい。
あの後だって話したのは数回しかない。
でもわたしは知ってる。
ビル・ウィーズリーはこんな私にも優しくてたくさん誉めてくれた私にとって特別な人。
あれから何年か経って私はビルと同じくらいかっこいい魔法薬学者の男性と結婚した。
少ない望みしかなかったけれど彼にも結婚式の招待状を送った。
当日会場を捜した。
しかしビルらしき人を見つけることは出来なかった。
数日後一通の手紙が届いた。
仕事を休めなかったなど欠席の理由やお祝いの言葉が敷き詰めてあった。
彼の字から伝わるひととなりに薄く微笑んだ。
1枚で完結しているものだと思ったら封筒にはもう1枚小さなカードが入っていた。
『僕も貴女の旦那さんと同じくらい貴女のことを愛していたこともありました。』
みんな、知らない。
私も、知らない。
そんな隠された事実。
end
ビルは罪づくりな男なんだと思ってます。チャーリーなら最後まで好きだったことは言わないかと。
それが長男と次男の違い…とか言ってみる。