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□降り注ぐ群青
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※現代


ぼぅ、と不意に青いものが脳裏をかすめるときがある。
それはおそらく誰かの衣服の色で青というには少し暗いかもしれない。
群青、それがぴったりの名前か。

図書室で色図鑑を1人眺める。
こんなものを開く普通の高校生がいるだろうか。
あー、後輩の猪名寺くんなら開くかもわからないが。
彼は絵を書くのが好きだから色を探しにこれを見るかもね。


「閉館時間なので帰ってください!」

「ごめんね、摂津くん」


彼らを見ると空色を思い出す。
なぜだろう。
それもまたわからない。


「…返却は早い目に…もそ」


「はい、2週間後きちんとお返しします」


高校3年生の図書委員会委員長の中在家先輩。
彼は深緑。
彼を見ると不思議に安心する。
話したことはあまりないがお互い顔見知りではある。
その程度の関係なのに安心するのが不思議なのだ。


図書室を出ると外からいつも元気な体育委員会の声が聞こえてきた。
どうやらランニングをしているらしい。
列の先頭に立つのは委員長の七松小平太先輩。
むこうは私を知らないと思うが彼は有名人だから私は知っている。
彼も深緑。
そして何故か中在家先輩もちらつく。
2人は仲がいいようではないけれど…両極端な人だもの実は仲良くできるんじゃないかな。
私は自分がきっと相性がいいと思うからこのイメージなんだと思うことにした。


列に並ぶ中であと知っているのは平滝夜叉丸くん。
彼は紫。

しろべえくん。
あの子はたまに図書室に久作くんといるから見たことがある。
彼と久作くんは青。
群青とは少し違った青。


三之助くんは前に富松くんと一緒に捜した記憶がある。
私は富松くんとは委員会が同じなためよく私がお世話になっている。
情けない。

彼らは萌黄。
芽吹き始めた草木の色。
私はとても彼らが好きだ。


靴を履いて外にでると地中から声がした。
あたりを見渡すとこっちですと右側から声がした。


「綾部くん!…に風紀委員の皆さん」


私は苦笑いをもらす。
なぜかといえば綾部くんが掘ったであろう穴に皆でおしくらまんじゅうのようにして入っているからだ。
私はこの委員会の人が好きだ。
上品且つずるくて。



「何故風紀にこないんだ、あんな委員会よりこっちのがいい」

立花先輩は不機嫌そうに問う。
どこの委員会も人員不足は死活問題であり困っている。
それはもちろんうちの委員会もだ。

「食満先輩はいい人ですよ」

「留三郎はうるさいだけだぞ」

私は苦笑いしながら小さく手を振ってくれた下級生たちに手を振り、腕を組みながらぶすけている立花先輩にもさようならと声をかけ歩き出す。


はやく家に帰ろう。
早歩きを始めた瞬間後ろから手を引かれた。
もちろん私は倒れそうになる。
あっ、死ぬかも。


「あっぶねえよ、勘右衛門」

「よっはっちゃん!いけめん、たけめん!」


なにやらふわりと受け止められたようだ。
死ななくて良かった。

「ごめんな、勘右衛門今興奮してて」

「大丈夫です。ありがとうございま、す」


群青。



振り返り会釈をしたあと彼の顔を見たら群青が脳裏にうかんだ。
初めて群青がみえた。
手がふるえる。
これは嬉しいの、それとも恐いの、悲しいの。



「あのさこれ雷蔵から!図書室に忘れ物!」


勘右衛門と呼ばれたドレッドヘアーの青年は私に見慣れた筆箱を渡す。
彼をみても群青が浮かぶ。
どんどん私の頭の中は群青に浸食されていく。


見え隠れする意地悪い笑みにそれを咎める苦笑い。
何かを捜していたり、団子をほおばっていたり、壺を抱えていたり…なんだろう。
懐かしい。




「お前は別人になったよな」

「悲しいからって忘れた奴らは賢いとは思うけど…」

「八左ヱ門、禁句」


はっと口を押さえる八左ヱ門くん。
なんのことだかさっぱりわからないが彼はまずいことをいったようだ。


「あの、筆箱ありがとうございました。その、雷蔵さんにもよろしくお伝えください」


また会釈をして私は去ろうと方向転換をする。
門の前につくとすぐに彼がこちらに寄ってきた。
目の前には胸元が。


そしてぎゅっと抱きしめられる。

「三郎、帰るよ」

「うん」



私と同じ施設に住む三郎は違う高校に通っていていつも私を迎えにきてくれる。
ほとんどの生徒が寮に住むこの学校。
私のように自宅から通う人はほんの一握り。
学校の前は人通りも少なくて危ないから、と施設の人が毎日誰か男の子を迎えによこすようになったのが始まり。

今日は三郎1人だが、いつもは左門や数馬、三木ヱ門、彦四郎、金吾がついてきていたりもする。
あと文次郎くんも。


毎日迎えに来てくれる責任感の強い彼だが人と仲良くするのが苦手でよく保健室で休んだりしているらしい。
だが世話好きな先輩というのがいて面倒をみてくれているようでこちらはとても助かっている。
伊作さん、そんなような人だったと思う。



私は群青の話をしたくて仕方がなかったが三郎は目に見えないものの話を嫌う。
だから話せない。
こんなにも群青は私の頭を侵しているのに吐き出し口がないなんて。
帰ったら数馬と伏木蔵にしよう。
あの子たちはそういう話が好きだ。


「何かいいことでもあったのか?」

「わかる?」


ぽつりと三郎がきいた。
私は顔に出やすいタイプみたい。


「八左ヱ門くんと勘右衛門くんっていう子に初めて会って…あの色の話になっちゃうんだけど」

「群青がみえたか」


目を見開いて隣を見る。
なんで三郎、わかったの。


「懐かしくなっただけだろう。すぐに見えなくなるさ」


意味深な言葉を吐いて三郎は私の頭を撫でた。
するとさっと嘘のように群青が消える。
三郎には不思議な力があるとは思っていた。
やっぱり、すごいや三郎。
遠くを見つめるように笑う三郎は綺麗だった。


「三郎、綺麗」

「急にどうした」

「群青が見えるの、三郎に」

ぎょっとされた。
私はただ感想を述べただけなのに。


浮かんだのは群青の着物を着た三郎によく似た人。

いや、三郎かな。


私、なんとなくだけど覚えているの。
小さいときの記憶だったか、落とし穴に落ちたことがあって5つの群青が助けてくれたこと。
そこに三郎がいたこと。
群青が優しい色だってこと。



君がその話を拒むなら話さない。
きっと話す日は来ないだろう。
彼は誰かを気遣ってしないようにしているようだから。
それなら私は話さない。




「忘れたかったやつは思い出さない方が幸せな結末だったまでの話だ」

「それを無理に繋げるのはルール違反」

「私は無理強いしたくはない」

「もう色の話はやめよう」


いつもはしないような真剣な顔をするものだから私は口をつぐむ。



消されたはずの群青はまた私の頭を侵していった。


降り注ぐ群青


end
title by hasy

個人的なメモですが
保健委員
記憶あり:乱太郎
記憶なし:左近
他校:伊作、数馬、伏木蔵

会計(以下色々と略)
◎:団蔵
○:左吉
×:潮江、三木ヱ門、左門

作法
◎:全員

学級
◎:尾浜、庄左ヱ門
×:鉢屋(記憶はうっすら)、彦四郎

体育
◎:しろべえ
○:2人以外
×:金吾

図書
◎:雷蔵、きり丸
○:中在家、久作
×:怪士丸

生物
◎:竹谷、三治郎、虎若
○:一平、孫兵
×:孫次郎

火薬
◎:伊助、タカ丸
○:三郎次、久々知

用具
◎:食満、しんべヱ、作兵衛
×:喜三太、平太


長くなってしまい申し訳ありません(-"-;)
あともしかして五年の色は群青じゃないとかいうのはノーコメント。


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