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□なかなかどうして利口な君は
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うちのクラスの美人といえばきりちゃんに笹山くんという名前が挙がるのは間違いない。
私は三治郎くんだって可愛らしいと思うし皆本くんだって男前だと思う。


だけれども私が好きなのはその誰でもなかった。


「お前、来年も好きだったら告白しろよ」

「は、え無理無理。きりちゃん誰にそんなこと言ってるの」

「…意気地なし」

「返す言葉もございません」


放課後の教室できりちゃんがため息をつく。
でもそうは言っても高校生にもなってあれだが恋愛経験なんてこれっぽっちもない私に告白しろだなんて正直地獄だ。
そんなこと言ってるから彼氏出来ないんだよ、きり丸さんその通りです。

幼なじみのきり丸はモテるし彼女がいたことだって私が知っているだけでも片手で数えきれない。
そんな恋愛経験豊富な彼がこう言うのももう私の恋が2年目に突入していたからだ。
しかもまったく進展なく。
早くけりをつけろということか。

「相手がな金吾とか虎若とか鈍いやつならまだしも庄ちゃんに気付いてもらえねえってのは重症だな」

「だってアピールの仕方なんてわからないもん」

「だってじゃねえだろ、だってじゃ」


頭をこづかれた。
だっt…アピールの仕方というか親しげに見せる技を知らないのと気恥ずかしいというのが本音だった。
これでも私的には進歩したほうなのである。
彼には敬語なしで喋れるしありがとうとすぐに言える。
コミュ障の極みとでも言いたくなるような進歩だと自分で言っておいて嘆きたくなった。


「まあ嫌われてるわけではないだろうし頑張る価値はある」

「俺が無料で相談乗ってやってんだ、最後まで頑張れよ」

「ありがとね、きりちゃん」


きりちゃんは照れたようにそっぽを向いてじゃあなと言って帰っていった。
きりちゃんはなんだかんだ言っても優しいし可愛いところもあってそんな彼が幼なじみで良かったと心の底から思っている。
私はきりちゃんを送り出した後日直日誌を書き終わっていなかったため急いでペンを走らせる。


「あれ、まだ居たんだね」

「黒木くん!あっ、ごめんねすぐに出るから」


急に開いた引き戸の音に吃驚して顔を上げると黒木くんが立っていた。
今日も素敵な笑顔だ。
やっぱり私はこの人が好きだと実感した。


「いや大丈夫だよ。電気がつけっぱなしなのかと思っただけなんだ」



私があまりに物音をたてないものだから誰もいないと思ったらしい。
黒木くんは私がいることによって用事はなくなったのだしそのまま帰るものだと思っていたら引き戸をきっちり閉めてこちらへ歩いてきた。
私が驚いたのは言うまでもない。

黒木くんは私が座る席の前に座り日誌に目を通し始めた。


「僕学級委員だからこの日誌毎日一通り目を通しているんだ」
「土井先生はそこまでしなくてもいいと仰るんだけどなんだか落ち着かなくて」


初耳だった。
この日誌に黒木くんが目を通しているなんて。
先生しか目を通さないものだと思っていたから割と1日の感想なんかはどうでもいいことを書いたりしていたのだが…。
まさか黒木くんにそれを読まれていたなんてショックすぎる、死にたい。

「よくきり丸たちのことを書いているよね」

「うん。幼なじみだからよく話すしこれを書くとき一緒に話題を考えてくれるからかな」

「そうなんだ。初めて知ったよ」


私達がその後も話していたら加藤くんや佐武くん、皆本くんたちザ・男子組(女子たちはこう呼んでいる)が教室に入ってきて黒木くんを連れて行ってしまったため喋れたのは本当に短い時間だった。
それでも楽しかった、幸せだった。


だけど入ってきたのが笹山くんや夢前くんだったらもう少し長く喋れたかもしれないと思ったら自分の運の悪さを呪いたくなる、元保健委員というのが効果を発揮したのだろうか。


いつもあまり喋ることの出来ない子と喋れて楽しかったです。
ぱぱっと日誌の最後にそう書いて職員室に提出しに行った。
土井先生に遅かったから心配したぞと言われて初めて時計を見る。
きりちゃんと喋ったのは5分にも満たない時間で黒木くんが来たのがその数分後、もうそれから30分以上が経っていた。
私は思っていたより彼と話していたみたいだ。
私が謝ると先生は優しく笑ってこう言ってくださった。

「いつも丁寧で仕事が速いと庄左ヱ門と朝話したから遅く感じただけだ、きっと」

「、そうですか?」

土井先生は私の問いにこくりと頷いてそれから気をつけて帰るようにと私に忠告した。



職員室から昇降口に行くと誰かが外にいるのに気付いた。
黒木くんだ。
誰かを待っているみたい。


靴箱から大分かかとの削れたローファーを取り出しそれを履いて外に出た。
黒木くんに声をかける勇気はなく素通りして正門まで歩き始める。


後ろからは黒木くんが誰かに電話している声だけが聞こえた。

門のあたりまで歩いてくると後ろから誰かが走ってくる音がした。
バスか電車に乗り遅れそうなのかなと腕にはめられた時計を見るもそんなことはない。
疑問に思っていると肩を大きな手に優しくたたかれた。


「一緒に帰らない?」


振り返った先にいたのは私が期待した人物ではなくて皆本くんだった。
あまりに急なことで動揺してしまった私は私?と自らを指す。
彼はこくこくと頷いた。
そんなとき皆本くんの右手に握られたケータイからたまたまちらりと見えた通話中の文字とあの名前。


正直泣きそうだった。
きりちゃん、私どうしたらいいの。


皆本くんの誘いを断れない私は彼にいいですよと返事を返してしまって、そのときの本当に嬉しそうな彼の笑顔に罪悪感を覚えた。


次の日になるとその噂はクラス中に広まってしまっていた。
きっと加藤くんあたりだ。
その日きりちゃんにはこっぴどくしかられた。
でも一緒に帰ろうと言われただけで…と言ったら告白みたいなもんだろ!だそうだ。

放課後に呼び出され皆本くんに告白されたのだが私はちゃんと断った。
他に好きな人がいるのでごめんなさい、きりちゃんと何度も練習したのだからきちんと言えて当たり前だ。

すると皆本くんは相手が誰か知りたいと言った。
そして相手によっては諦めない、とも。

「…黒木くんが好きなんです」

「庄左ヱ門かあ…」


なら仕方ない、ありがとう。
そう言って彼は去っていった。
やっぱり皆本くんは男前だ。
そんな彼に認められる黒木くんは相当信頼されているらしい。

それからは皆本くんと親しくなりきりちゃんと2人で相談に乗ってくれるようになった。


まだまだ私の恋路はうまくいきそうにない。


end
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続きます。
しばらくお待ちくださいませ。
庄ちゃんは罪な男ですね、うんうん。
Title by hazy

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