時の歯車
□ネオ族と呼ばれる者達
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しばらくの間、誰も身動きをする者はいなかった。
ダイアナだけが、ロイザックスから離れて仲間のもとへ、てんてんと歩いてきた。
苦しい沈黙を破ったのは、ラドールがラナの部屋のドアを閉めたこと。
あまりのショックに声も出ない仲間を残して、ラドールは一人外へ出て行き、船縁に手をかけると赤くなり始めた空を見つめた。
(・・・オレも・・・耐えらんないよ、ラドール)
シャンは沈黙に耐えられなくなり、ラドールの後を追った。
シャン「なぁ・・・これから、どうしよ?」
遠い目をするラドールの横顔に、尋ねるシャン。
ラドール「どうするか・・・答えは一つだ」
シャン」「あぁ。ラナを助ける・・・だよな」
無言で頷くラドール。
ラドール「・・・見ろ」
シャン「ん?・・・カラスの群れ?」
ラドール「・・・仲間が一匹減ったとしても、他のやつは飛び続ける。
・・・何事もなかったかのように」
シャン「あぁ。・・・俺らにもそうしろって?」
ラドール「いや。俺達は、カラスとは違う。
ただの群れを成す動物とは違うさ。」
とても、綺麗な夕焼けだった。
ラナが、好きそうな暖かい空だ。
シャン「・・・だから、ぼーっとしてる場合じゃないってか。
・・・そうかもな。
ほんと、ラドールって不思議なこと考えんのな。
いつも大変だろ?そんなわけわかんねーことで、いっぱいでさ」
ラドール「考えなければ、もっとよくわかると言いたいのか?」
シャン「んー・・・ってかさ、もっとこう・・・
気楽にしてもいんじゃないか?って。
オレ、いっつも何も考えてないからなぁ」
ラドール「何も考えない人間がいるものか」
カラスの群れは、だんだんと小さな点になっていく。時間の感覚がなくなるような・・・
そんな、気になる。
シャン「まぁ一番頼られてんだから、誰も考えない分、考えてくれんのはありがたいけどさ」
ラドール「お前は考えなさすぎだ」
シャン「はいはい。でも、これでも考えてんだぞ?・・・色々とさ」
ラドール「・・・ロイザックス・ボントのことか?」
シャン「!・・・知ってんのか?!」
シャンはびっくりして声を張り上げた。
ラド-ル「やつの父、バリヤドリッド・ボントと知り合いだ」
意外な答えに、シャンは口をぽかんと開けた。
シャン「へぇ・・・そうだったのか。
アイツは・・・ロイザックスは、オレの旧友だったんだ。
ずっと会いたいとは思ってた。・・・
もう10年近く会ってなかったから。
たしかに、願いは叶ったぜ?でも、最悪な叶い方だ」
ラドール「・・・かもしれないな。・・・気の毒だ」
シャン「・・・アイツの父親も、ジザに入ったのか?」
ラドール「さぁな。たいした仲ではなかった」
ラドールは、相変わらず遠い目をしていた。
シャン「・・・ふぅん」
ラドール「・・・さて、そろそろ戻って計画を立てねばならんな」
シャン「・・・だな!ラナが・・・待ってる」
シャンは両腕を伸ばした。
さっきまで固まって動かなかった筋肉が、少しほぐれた気がした。
二人はゆっくりと向きを変え、仲間のもとへ戻って行った。
シャン「珍しいな、クリスとロイスがこんな静かだなんてさ。なんか気味悪いぜ」
クリス「あんた・・・なんで平気なのよ」
シャン「あ?」
もどって早々、シャンはクリスの勘に触ったようだ。
クリス「どうしてそんな平然と突っ立ってられんのかって聞いてんの」
シャン「全然平気じゃねぇよ。
・・・けど、俺は一人じゃないからさ。考えんのも・・・一人じゃねんだよ」
シャンはちらりとラドールを見て、得意げに口をあげた。
クリスは両手を腰に当てると、強気な笑みを浮かべた。
クリス「・・・まともなこと言うじゃない。
あたしの心はもう決まってるわよ」
シャン「みんな・・・そうだろ。なぁ?」
7人で交わした目。おこには、これからの旅に必要な、大切な大切なものが見えた。