秘密

□アからはじまる愛言葉
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喧嘩をした。

悪いのは俺、わかってる。
でも謝る気になれないのはどうして?


今日も彼は笑顔を絶やさない。

それがどうしても気に食わなくて、自分だけこんなに悩んでるのが馬鹿らしくなってきて。
思わず言ってしまった「キライ」の言葉。

カイトは俺の目をじっと見下ろして「そう、」とだけ言った。
それから少し考えて小さく笑いながらアで始まる五文字の言葉を並べるとその場を去ってしまった。


聞こえなかったわけじゃない。

理解できない言葉だった。


聞き取れないくらいあっさりと、俺とカイトの間を通り過ぎていった。

あれは一体、何だったんだろう。

思い出して考えようとすればするほど、記憶から剥がれ落ちていく感覚がして怖かったから何も考えないことにした。



あれから二週間。


廊下を歩いていると、ガチャッと鍵の音がした。
耳のいいボーカロイドだ。
きっとカイトが俺の足音を聞き分けて慌てて鍵をかけたのだろう。
自分で突き放したくせに、そんな態度をとられたら腹がたった。

中で何をしているのかな。

最近カイトの声を聞いていない。
普通の日常会話は耳にするけど、それが俺に向けて発せられることはなかった。


もう夜中だ。
辺りは静まり返っている。

俺はカイトの部屋の扉に背を預けて様子を窺うことにした。
ゴソゴソと布の擦れる音がしてベッドが軋む。
寝てしまうのかと少し残念な気持ちになったが、カイトの寝息だけでもとその場にとどまる。

なかなか止まない音。

それに混じって時折聞こえるすすり泣くような押し殺した声。


どうして泣いてるの?
悲しいの?寂しいの?

俺以外の、誰のための涙なの?



暗い感情が渦巻いて我慢ができなくなった。
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