秘密

□ジーニアスの憂鬱
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終業のベルの音にはっとして顔を上げると、もう外は赤く夕焼けに染まっていて時計の針は4時半をさしていました。


「少し没頭しすぎましたね…」


右手の試験管から左手のフラスコへ溶液を移し、それを軽く振りながら中途半端にかけられたカーテンを開けて窓を閉める。


今日の実験はここまで。

白衣のポケットからゴム栓を取り出して蓋をし、棚にしまいこむ。
残りの実験器具も片付けようと手を伸ばしたときでした。

コンコン、とドアをノックする音。

振り返ると少し開いた隙間から黄色いアホ毛が覗いています。


「…ジニ先生いますか?」

「いますよ。何か質問ですか?」

「いや…って、なんだ。ジニだけか」


恐る恐る入ってきていながら部屋に私一人だと知って急に元気な笑みをこぼす。
白いワイシャツに赤いジャージを腰に巻いた、2年A組のスクールジャージくんでしたか。


「おや、いらっしゃい。忘れ物でもしましたか?それと『先生』は付けてくださいね」

「忘れ物でもないし先生もつけない。遊びに来てやったんだよ、どうせ一人でフラスコと睨めっこでもしてたんでしょ?」


ぐっ…そこまでピタリと言い当てられると何も言い返せませんね。
でもこの定期テスト前に「遊びに」ですか。
明後日から何の日かわかってるんでしょうか。

とりあえず化学は100点ですよね?


机の上に広がる実験器具と、黙ってしまった私を見て「やっぱりね」と呟く。

それからツカツカと私の前に歩み寄り、ビシッと人差し指を目の前に突き付けて何やら偉そうに宣言しています。
思わず顎を引いて気圧されるように頷きましたが残念ながら聞いていませんでした。
実験は自分で考えてある程度の予想の範疇で事が起きるので、不意な出来事には電脳がついていけないのです。

しかしそれが間違った行動だったと知ったのはそのすぐ後でした。

スクジャくんの顔が意地悪そうにニヤリと歪み、強く肩を掴まれたかと思うと机の上に押し倒されてしまいました。
わけがわからず手足をバタつかせて起き上がろうと試みましたが、おかしなことにビクリとも動けません。

それにスクジャくんはこの笑顔。


「あ…あの?」

「ふっ、ふふっ、もしかしてセンセーこういうことしたことないの?」

「こういうこと、とは…どういうことでしょう」

「こういうことだよ」
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