雲が花を見つけたら

□雲が花を見つけたら
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「おい、雲田。知り合いか、あの人?」


春秀の問いかけに、驚きで口が開きっぱなしになっていた雲田はハッとした。


「し、知り合いなわけあるかよ、あんなチャラそうなヤツ」

「?」


どれだけ適当なヤツなのか、愚痴を漏らしたい気持ちでいっぱいだったが、あの男に子供騙しのオモチャで驚かされた事を知られるわけにはいかなかった。


 そんな会話をしていると、女子たちは早速異様な盛り上がりをみせている。


「先生イケメーン!」

「うーん、花次先生なら、そうだ!花ちゃん先生はどう?」

「あ、かわいい〜!そうしよ、そうしよ!」


女子が盛り上がるのも無理はない。花次は華奢だが、スポーツをやっていたかのような引き締まった体をしている。
それでいて整ったハーフのような顔立ちだ。大学でもモテているに違いない。

クラスのアットホームな雰囲気に、花次は懐かしげに笑みをこぼした。



「俺もここの卒業生だ。皆にも楽しい学生生活を送ってもらえるよう頑張るから、実習期間は一ヶ月だけだけど、お互いにいっぱい思い出つくろうね」



そうして、花次の挨拶が終わると、いつも通りホームルームから一限目が始まるのだった。



□□□



 六限目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、皆、部活動だとか友達と寄り道だとか、わいわいと教室をあとにする。

雲田もまた、同じように教室を出るが、向かう先は決まっていた。



「おーい、雲田っちー!」



と、背中から声をかけられたが、声の主は振り向かなくとも分かる。



「大地、春秀」



振り返れば、雲田を草むしりの刑にした二人が手を振っている。



「雲田、俺たちこれからゲーセンいくけど、お前は言わずもがなだよな、フッ」

「分かってんなら聞くなよ、しばらくは放課後草むしりで潰れっから二人で行ってこい」

「じゃあ、はるちゃん、今日は二人で行こっか。雲田っち、また三人でホッケーしようね!」

「ああ、分かったから、さっさと行ってこい」



そういって、大地、春秀と別れた雲田は、校庭の裏庭へと向かった。




 気持ちのよい風が吹き抜け、肌を優しく撫でる。



「さーて、やっか」



やりたくなくても、やらなければ終わらない。
この際、諦めてさっさと終わらせてやろう、と雲田は元気に伸びる雑草の上に腰を下ろした。

すると、



「お、草むしり君じゃん」



その声に、「俺は雲田です」と少し強めに言うと教育実習生の、丘 花次は、ぶっと吹き出した。



「君、いつもそんなにイラついてんの? カルシウム足りてる?牛乳飲め」

「余計なお世話っすよ。それより何でこんな所に居るんすか?」



雑草を抜く手を休めることなく、雲田はぶっきらぼうに花次に問う。



「ああ、これから陸上部の特別コーチをしに行くとこなんだ」

「へえ、アンタ陸上部だったんだ」



通りで細くても筋肉質なわけだ。



「そ。桐野峰台で三年間、陸上やってたんだ」

「ふーん。じゃあ顧問って昔から変わらず、うちの担任の森センなの?」

「そうだよ…。変わらないよなあ、あの人」

「そうなの? アンタ卒業して三年くらい経つじゃん。結構老けたんじゃねえの?森センも、自分で白髪増えたとか言ってたし」



瞬間、風が吹き、緑がささやく。
吹き上がった風から、途端に反らした視線の先には、
誰かを想うような、切ない顔の花次が居た。

花次は少し考えたあと、




「そうだね。変わってないのは寧ろ俺の方だ。…俺の中の時間はまだ止まったままだからさ」

「…?」



首を傾げる雲田に、にこりと笑った花次は、



「じゃあ、俺は鬼コーチの時間だから行くね!草むしり君も頑張って」

「雲田っす」

「はいはい」



ふざけた返事に雲田は、昨日の仕返しに少し花次をからかってやろと
咄嗟に考えたついた事を口にした。



「あ、そうだ、アンタ女子の間でウワサになってたけど」

「え? イケメンだってウワサしてた?」



意地の悪い笑い方をする花次に、雲田は首を振る。



「いや? 花ちゃん先生ってホモじゃないかって」

「え?」

「そんで、森センの事好きなんじゃないかってさ」

「…」



咄嗟に考えたついた低レベルな嘘に、自分でも苦笑した。
でも、からかうには、これくらい馬鹿げた事の方が後腐れなくていい。
下手にリアルな嘘だとかえって気まずくなったりするものだ。

雲田は、ちらりと、彼の反応を伺った。
しかし、そこには、



「は? あ、アンタ何だよ…その反応」



雲田が驚くのも無理はなかった。
自分が口にした冗談を、からかい返してくると思われた花次が、
図星だと言わんばかりに赤面していたのだから。



「えっ、ま、マジで…?」
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