雲が花を見つけたら
□雲が花を見つけたら
1ページ/9ページ
青空の下、辺り一面に広がる緑。
まるで、モンゴルの草原を思わせるかのようなそこは、ただの校庭の裏庭だ。
気持ち良いほど伸びきった雑草に深いため息をつきながら、雲田 頼男(くもた よりお)は、やる気のない手つきで雑草を引き抜いていく。
「くそ、放課後だっつうのに、なんで俺だけ…」
抜いても抜いても、一向に減る様子もない雑草は、億劫な気持ちとは裏腹に、爽やかな風に吹かれ気持ちよさそうにしていた。
「だー!こんなん終わるかよ、やってらんねえ!」
減らない緑に苛立ち、抜いた雑草を気持ちのまま、降り投げる。
すると、
「うわっ!」
と、その声で、初めて近くに人が居たことに気づいた。
目の先には、黒のスーツを着た男。
男は両手で目をふさいでいる。
すぐに、投げた雑草の土か何かが目に入ってしまったのだ、と気づいた雲田は、
「え、嘘…!す、すいませんっ!大丈夫ですか!?」
「う、うう…」
男は弱々しいうめき声をあげながら、その場にしゃがみこんでしまった。
慌てた雲田は、小さくなった男へ近寄った。
「あのっ、本当、すいません!わざとしゃないんです、俺っ!」
「…」
「…あの、大丈夫ですか?」
雲田が男の顔を覗き込んだ瞬間。
「じゃじゃーん!」
と、さっきまでうずくまっていた男の手から、
「ぎゃーっ!!蜘蛛!!」
雲田はなにがなんだか分からずも、目の前に突きつけられた蜘蛛らしきものに驚き、しりもちをついてしまった。
その様子を見るや否や、男は腹を抱えて笑いだす。
「くふふ、だっせー。よく見ろって、オモチャだよ、オモチャ」
「へ?」
改めて見せられたそれは、蜘蛛の形をした子供騙しのオモチャだ。
「こんなんでビビるとか、君面白いなー、くふふふ、ははは」
「あ、アンタ、目に砂が入ったんじゃ…っ」
「あんなのパフォーマンスだって、素直に信じちゃって。はー良いリアクションだった」
雲田をからかった男は満足そうに、笑みを浮かべた。
突然目の前に現れ、初対面で自分をからかう適当なこの男。
減らない雑草で既に苛立っていた雲田の怒りは爆発寸前だ。
「あ、アンタなあ!やって良いことと悪いことがあんだろうが!」
「いやあ、草とたわむれる姿が可愛くてつい、からかっちった」
「たわむれてねえし!つか可愛くねえし!!」
「そんなイライラすんなって」
「させてんのはアンタだろうが!てかな、ここ一応高校の敷地内だぞ、部外者が入っていいとこじゃねえんだけど?」
声を大にする雲田に動じる様子もなく、男は少し考えたあと、けろりとした口振りで答えた。
「あいにく、部外者じゃないんだ」
「は? どういうことだよ」
「ふふ、明日になれば分かるよ」
「ちょ、おい!」
「と、いうわけで、先生方に挨拶があるからまた明日ね、草むしり君」
男はそういうと、鼻歌まじりで雲田に背を向ける。
「あ、こら待て!」
咄嗟に雲田が男を呼び止めるも、男は振り向く事もなく、
「明日学校でな、草むしり君ー」
と、陽気に手を振ってくるのだった。
「なんだってんだ」