上巻
□暁の森へ
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森に迷ってしまった。
まだ昼間だというのに薄暗い。
肌に感じるのは ヒリヒリとした恐怖と
肌をすり抜けるひんやりした風。
一人の女性は森の中にあるカフェに向かっていたはずだった。
以前から紅茶の種類が豊富と少し有名なカフェで、
今月 退職する会社の有給消化を利用して念願のそこへ向かおうと足を運んでいたのだ。
しかし、いつまで経ってもカフェらしき建物は見えて来ない。
回りの静けさも増し、気付けば森に呼ばれているのか、どこを歩いているのかまるで見当が付かなくなっていた。
女性はふと、そのカフェに纏わるある噂を思い出した。
《そのカフェに向かったが最後、》
《二度とその森から出ることはできない》
身震いをした女性は引き返そうとするが、
瞬間、森の木々がざわめきだした。
ゴオ、と一気に強い風が吹き荒れる。
女性は咄嗟にしゃがみこんで両の目を塞いだ。
風が止んだのを確認してから、
女性は恐る恐る目を開くと
そこには
『マーマレード』という看板と共に
古びたカフェが姿を現した。
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