上巻

□不気味な飴
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ウタの腕の中でハルは短い息を繰り返していた。



すると、




「ちょっとー、うざいんですけどー」




と、螺旋階段からゆっくりと3人目の男が姿を現す。










男は、肩辺りまでのストレートで長い髪に、
棒つきの飴を頬張りながらこちらへ近づいてくる。








男はハルの目の前まで来るなり、「ふーん」と上から下まで舐めるように目をやった。







「ちょっと、セラト!じろじろ見んな!こいつは僕のなんだよ」




と、ハルを腕にしながらウタが言った。




「別に?そんな女俺の好みじゃないしー。はなから要らないけど?」





セラトという男は興味なさ気な表情を浮かべている。





「ハッ、セラトがいらねぇなら俺が遊んでやるよ、どうせ暇だしな、おい、ウタ、その女寄こしな」





「や、やだよ!ハルは僕のなの!」






3人がそんな言い合いをしていると、
気付ばハルの身体は元の感覚を取り戻していた。




ミヅキに飲まされた弛緩剤の効果が切れたのだ。





ハルは思い切りの力で
身体に回されたウタの腕から逃げ出した。



「あ、ちょっとハルっ!?」







「わ、私は誰のものでもありません!帰ります!」






ハルは来た時に開けた大きな扉に手をやる。




「(早く、ここから逃げないと!)」






しかし、扉はびくともしない。





「なんで…」






錆びたドアノブを必死に回すが、
まるで魔法がかかってしまったかのようにぴくりとも動かないのだ。







「どう…して?」







震える息に混じらせそんな言葉を漏らすと、
後ろにはミヅキが長い舌を出して不気味に笑っていた。







「どうしてって、そういうこと。生憎外は土砂降り。今帰っても森で遭難するぜ?ま、雨が上がった所でお前を生きて返すつもりはない、がな」








「いや!、何で!私はただカフェにきて、それでっ、」






「あーはいはい、まんまとアホの子のように罠に引っかかったってわけだ、このアホ子」






「違う!私はただっ」




ハルが言いかけた途端、その言葉を発した口はミヅキのそれで強引に塞がれた。





「んぐッ…!、ハァ、」






「わかんねー女だな!お前は森に入った時点で人生終わってんだ!ここに来たが最後、俺らに殺されに来たも同然なんだよ!」







「そんな…私は…」





ハルの目に涙の膜が張ってゆく。







「面倒くせぇ女だな、勝手に泣いてろ !」







ミヅキのその言葉でハルの目からは大粒の涙が溢れだした。







「あぁ!ミヅキ!なんで泣かすんだよ!ハルが可哀想だろ!」





と、ウタがハルに駆け寄った。




「知るかよ!」





「ごめんね、ハル。でも大丈夫だよ、すぐには皆殺さないし、僕らもハルに楽しんで欲しいからさ!」




「も…やだ、…帰して…」






もう直に、理不尽な理由でこの命が絶たれるのかと思うと涙が出てくる。







「そんな事言わないでよ?ここが君の終の住処になるんだからさ、ね?皆気が短いだけで、本当は君を愛してるんだよ?それに、極端に反抗したりしなければ、殺されずに済むさ」




《殺されずに済む》




その言葉にハルは反応した。




「…本…当?」






「あぁ!だって今君が死んじゃったら皆暇になっちゃうからね!」

















もう二度とここからは逃げられない。
抵抗すれば、いずれは殺される。











だけど、









生き延びる方法はこれしかない。




















ハルは全て悟った。




















この殺人鬼と同じ屋根の下で
少しでもこの命を長く。














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