上巻

□もう一人の殺人鬼
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ハルは今、大きな湯舟に浸かっていた。



疲れただろうからとウタが勧めてきたからだ。





確かに今日一日で色々な事がありすぎて頭がパンクしそうだった。

この洋館から逃げようとすれば確実に殺される。
しかし、共同で暮らしていればいずれかは殺される。
ハルは頭を抱えていた。











そんな時、不意に目を向けると、



このバスルーム内にある全てのものがアンティーク使用な事に気が付いた。




バスルームだけじゃない。

ウタに案内された寝室やキッチン等、年期は入っているようだが、全てにおいてアンティーク品ばかりだった。






「この猫足の湯舟も、ちょっと可愛いかも…」





と、一息ついて居ると、























「いや、君の方が可愛いで?」















と、後ろから陽気な声が聞こえた。













「きゃっ!」








慌てて振り返ると、そこには
細目の男がバスルームの仕切りから顔を覗かせていた。





咄嗟に身体にバスタオルを巻き、首まで湯舟に浸かった。









「はは、そんなに驚くことないやん」









そういって男は、服のままハルの浸かる湯舟に入り始めた。



「はー、ええ湯やわー」




「ちょっ…、あのっ」










「何?君、男と風呂入るの初めてなん?顔真っ赤にして。可愛いやん」







男は、警戒するハルにゆっくりと近づた。



「こ、来ないでくださいっ…!」





二人の距離がゼロになり、男の身体はハルにぴたりと密着している。
















男はおもむろにハルの手首を掴む。





「あのっ…やめて下さっ…」







「なぁ、」








男は低い声で囁いた。
















「この手首、かじってもええ?」
















「…!、」








瞬間、ハルは気づいた。
ウタの言う、もう一人の殺人鬼の正体。











湯舟のお湯が静かに波を打っている。
















「大丈夫、取って喰ったりせえへんって。ただちょっとかじるだけや。なぁ、味見くらい、ええやろ?」











そういうと、男はハルの手首にかぶり付いた。










「やっ!…痛い!!」



















手首を噛んでいるこの男が、4人目の殺人鬼なのだ。










「やッ!、離して!」








ハルの抵抗虚しく、男の力に勝てるはずもなかった。



「そや、痛がってる顔、もっと見せて?」



肉を噛み千切るように強い力で歯を立てられた。
今まで味わったことのないような凄まじい痛みが全身を麻痺させる。




「あぁっッ…!!」







気付くと、手首からは細く赤い滴が水滴のように湯舟に落ちている。


やっと男に解放された手は赤く滲んでいた。










「んー、ええなー、その顔、ぞくぞくするわ」



ハルは恐怖と痛みで細い肩を震わせていた。






「気持ちよかったやろ?ワシこれ以外でエクスタシー感じられへんねん」










「く…狂ってる…」









ハルの震える息と共に出た言葉を訊き、男は笑い始めた。











「あはははは!!君おもろいなぁ、」




「…」












「でも、それは君がまだ知らないだけやで?」







「…?」








「ここには君の知らない世界が無限に広がっとる、それを君は今から全て知っていくんや。そして、」









「…」











「その全てを受け入れさせたる、君が知らない愛を…」










男は口角を上げながら言った。










































「それが、ここ、マーマレードや」























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