上巻
□快楽の男
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「はい、これで大丈夫だよ」
「あ、ありがとう…ございます」
ハルはウタに手首の処置をされていた。
先ほどの男が噛んだ傷を消毒して包帯を巻いてくれたのだ。
「いえいえ。それにしたって、まったくもー!キョウイチ!いきなりはダメじゃんか!」
「だって、めっさ可愛かったんやもん。もろワシ好みやし」
「だからって!まずは距離を縮める事から始めないと!それにハルは僕のなんだよ!」
「なに?どこに書いてあるん?さっき裸見たけどどこにも書いてなかったで?」
「うぐっ」
分の悪そうなウタを余所にキョウイチと呼ばれていた男はハルの元に近づいた。
「へ〜、ハルちゃんって言うんや。名前も可愛いやん、名は体を表すっちゅうしな」
「…」
黙っているハルに、キョウイチは、
「あと、さっきは堪忍な?、君が可愛過ぎてついかじってもうたんや、今度からはちゃーんと同意を得てからにするわ、な?そんな怒らんと、機嫌直してーな」
不機嫌だから黙っているわけではなかった。
ハルはこの男の恐ろしさに声が出ずにいたのだ。
すると、ウタは、
「あ、じゃぁハル、紹介するね。この細め目人がさっき俺の言ったもう一人の住人、丹波京一。キョウイチだよ」
「キョウ…イチ、さん」
「うん、彼は女性の手首が好きでさ、味見って言ってたまに噛んじゃうんだよねー」
「まぁ、それでしか勃たんのや」
そう言うと、キョウイチは包帯が巻かれたハルの手をとった。
「きゃっ」
「大丈夫、何もせぇへんから。さっきはホンマごめん。だからいい加減目くらい合してくれへん?」
その言葉で、ハルはふと、この男とは一度も目を合わせていない事に気が付いた。
「な?頼む、可愛い顔見せて?」
甘い声に誘われ、恐る恐る
キョウイチの顔を見た。
「お、やっぱり可愛いやん」
そう言うキョウイチは、優しそうな顔で笑っていた。
「ホンマ自分、めっさ可愛いで?、他の3人も夢中になる理由が分かるわ」
「え…あの…」
「なんや?褒められたんやで。褒められたらちゃんとお礼言わな。な?」
「え、あ、あの…。ありがとう…ございます…?」
「ん、お利口さん」
そう言ってキョウイチはハルの頭を撫でた。
「きゃっ、キョウイチさんっ…」
「はは!、可愛ええのー!」
いつの間にか雨は止んでいたが、
強めの風が森の木々揺らして
轟々と唸っている。