下巻

□夏風邪
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ミヅキに「俺の女になれ」

そういわれ、ハルは落ち着きを隠せなかった。
なんとなく、獲物の対象とかではなく、純粋にそれが「告白」に聞こえてしまったからだ。




「そんなことない…、ミヅキさんは私をからかっているだけよ」






そう心を落ち着かせ、ハルはウタにリゾットを届けにいった。
















コンコン、









「う、ウタくん?ハルです。ご飯を届けにきました」







返事がない。






「ウタくん?…入ります」











と、ハルは扉をあけ、ウタの部屋へと足を踏み入れた。




ウタはベットに横たわり、熱のせいで暑いのか、短い呼吸を何度も繰り替えしている。



「ウタくん、大丈夫ですか?」




その声にウタはうっすらと目を開けた。










「う…ん?…ハル?」


「はい、ミヅキさんがごはんを作ってくれたんですが、食べれますか?」







「食欲ない…けど、ハルが持ってきてくれたから…食べる」



「うん、でも無理しないでください」

「うん」





そういって、ウタは辛そうに身体を起こした。









「一応ちゃんと食べ物として成り立ってるみたいだね…」



「はい、レシピ通りにミヅキさんが作ってくれたので大丈夫ですよ」



「…ありがとうハル」



「わ、私はなにも」




「ううん、ハルの顔を見たらちょっと元気でたもん」




「ウタくん…」



ウタはスプーンを持ち、
オレンジのリゾットを口へと運んだ。



「うん、ちゃんと美味しい…」





その言葉にハルはハッと思い出したかのように、




「あ、そういえば」


「ん?」



「ウタくんが書いてくれたレシピの下の方に、私が美味しいって言ってくれるように心をこめてって書いてありました」





「え、見たの?…恥ずかしいな」




と、ウタは顔を伏せた。




「どうしてですか、私ちょっと嬉しかったです」



「ホント?」




「はい。だから、私もオレンジの皮を削っただけですが、その時にウタくんが早く元気になりますようにっておまじないしながらやりました」





「…嬉しい…。嬉しくて僕、また熱上がりそう」



「あっ、やだ、ごめんなさい」



「ううん、いいんだ。こんな嬉しい熱ならいくら上がっても辛くなんかないから」




「そんな事いって…。あ、これお薬です、飲んで寝て、早く治して下さいね」



「ありがとう」









ウタは薬を受け取り、再びベットへ横になった。






「ねぇ、ハル?」



「はい」









ウタが力なく手を差し出してきた。





「…?」





「…手、繋いで…。僕が寝るまででいいから…。お願い」





きっと心細いのだろうと、ハルは頷き、彼の手を優しく握った。





安心したような顔で目を瞑るウタ。










「ハル…」









寝言なのか、それは定かではなかったが、
彼の問いかけに返事を返した。






「はい」
























「…好きだよ…大好き…」

















その問にどう返して良いか分からず、
ハルはただ彼と繋いだ手に少し力を込めた。






































夏風邪かと思われたウタの熱は下がらず、数日間意識がもうろうとした状態が続いた。




























そして


























































彼はついに、その目を覚ます事はなかった。














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