下巻
□心の笑顔
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セラトが出ていった自室でハルが赤面していると、
またコンコン、とドアをノックする音が響いた。
ハルはまたセラトがからかいに来たのかと思い、頬を膨らませなかまら、
「もう!一体なんなんですか!」
と、勢いよく扉を開けると そこにはセラトではなく、
「お、おーハルちゃん!なんでそんなに怒ってるん!?」
「きゃっ、キョウイチさん!」
と、そこにはキョウイチが目を丸くしながら立っていた。
「す、すいませっ、私」
「えぇって。せやけど どうしたん?君、顔真っ赤やで。熱でもあるんか」
そう言ってキョウイチはハルの額に自分の手を乗せ、熱を計るような仕草をした。
「いえ、ね、熱なんかないですよ!それより、どうしたんですかキョウイチさんまで…。」
ハルはキョウイチを自室へと招き入れた。
「ワシ、まで?」
「はい。キョウイチさんやミヅキさんはともかく、セラトさんまで私の部屋にくるなんて、珍しいこともあるものだなって…」
ハルの問いにキョウイチは微笑みながら答えた。
「ああ、それは、君を元気付けさせよ思ってやったことなんやで」
「えっ、私に?…」
ハルは目を丸くする。キョウイチは続けた。
「せや。君、ウタがいなくなってから元気なくしてたやろ」
「はい…」
「そのこと心配してな、いつものハルちゃんに戻ってほしくてあの二人なりに気ぃ遣うてたんや」
「あの…二人が…」
ハルは不思議な気持ちになった。
「ハルちゃんが夜眠れん言うたらミヅキが寝かしつけに行く言うて、ハルちゃんがが腹減らん言うたらセラトが飴買うてきて」
「…みんな、私の為に…?」
「せやで。」
キョウイチはハルの肩を優しく抱いた。
「きゃっ、」
「今すぐには元気出んかも知れんけど、少しずつでえぇから、焦らんといつものハルちゃんに戻ってや、ワシら待ってるから」
自分の元気が出るように、不器用ながらにも皆気を遣ってくれていたのだ。
その不器用な気遣いに、ハルはたまらない嬉しさを覚えた。
「キョウイチさっ…、ありがとうございます」
ハルはキョウイチの胸の中に静かに顔を埋めた。
「それは、あの二人に直接言ってあげてな」
「…はい」
ハルはキョウイチに笑顔を見せる。
「お、その調子や。その調子でハルちゃんスマイルゴーゴーやで!」
「ぷっ、…なんかちょっと古い」
ハルは吹き出した。
「えー!ショックやわあ。やっぱ30近なるとあかんなー」
「ふふ…キョウイチさん…ありがとうございます、それと、お二人にもちゃんとお礼言わなきゃ」
「せやな、二人なら今キッチンにおるで」
「え?キッチン?、どうして」
ハルが首を傾げる。
「ハルちゃんに食べさす言うて二人してクッキー作ってんねん」
「わ、本当ですか、嬉しい…!何クッキーだろ」
「えっと、ミヅキはチョコクッキーで、セラトはなんやったっけかな。確かマヨネーズ味の作る言うて張りきってたで」
「ま、マヨネーズ!?、大丈夫かな」
下手物料理を浮かべるハル。
「ま、ハルちゃんに元気になって欲しいって思う気持ちは変わらんよ」
「…! そうですよね。あ、なんか少しお腹空いてきちゃいました。クッキーご馳走になろうかな」
「それがええ、それがええ!さ、リビング行こ?」
「はいっ」
ハルはキョウイチの背中へ続きリビングへと向かった。
ここに居るのは確かに凶悪な殺人鬼かもしれない。
しかし、そんな彼らはこんなにも自分を心配したり元気つけようと考えてくれている。
三人の気遣いのお陰で、ハルは少しずつ順調に回復し、その後、元よりも明るい姿を見せた。
そして丁度このころ、
彼女の殺人鬼への恐怖の感覚は、いい意味でも悪い意味でも
徐々に麻痺していた。
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