下巻
□終焉の朝
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森の朝。
時刻は朝の4時。冬の朝は夜に近い暗さと寂しさだ。
外は霧がかかり、昨日降った雪のせいで足元が不安定になっている。
4人は洋館の外へと出た。もう二度とここへは帰ってこれない、そんな覚悟を決めながら。
「ほんなら、行こか」
キョウイチに続いて、森の奥へと進んでゆく。
「アホ子、寒いか?」
「いえ、大丈夫です」
「ま、辛くなったら言え。俺が暖めてやる。イイコトして、な」
「け、結構です」
「ハッ、おめぇに拒否権なんかねぇよ、もうお前は俺様の女兼下僕なんだからな、」
「えっ、ちょ、いつからそうなったんですか」
「隠すな、お前俺に惚れてるくせに」
「はい!?」
ハルが目を丸くした。するとセラトがいつものやる気のない声で、
「はー、良く言うよ。お熱なのはミヅキのくせにさ 」
「はあ?俺が?よせよ、アホ子が俺に惚れてんだろ、俺の下半身見ながらいつもモノ欲しそうな目で見てるくせによ」
「ちょ、ちょ!見てませんし、ミヅキさんのものになった覚えはありません」
すると急に、キョウイチがシッと、人差し指を唇に当てた。
「なあ、ちとヤバイで」
その時、異変は既に起きていたのだ。
「…森が騒がしい…、多分なんか来る」
「えっ…」
キョウイチの言葉にハルは立ち止まる。
「立ち止まったらあかん…!走るで!…」
その言葉で4人は一斉に森を走り出した。
「何かくる」その正体は分っていた。
キョウイチたちを捕まえ、ハルを保護する為に森へ入って来た警察たちだ。
ハルは夢中で走った。この人たちとまだ一緒に居たいその一心で。
「きゃっ!」
「アホ子!?」
「痛っ…」
ハルは森の木の根に躓き転んだ。
「くっそ!馬鹿が!おら、乗れ!」
「えっ…!でも」
「でももクソもねぇ、おぶるから早く乗れ!」
ハルはミヅキの背中に乗った。
森の中をミヅキにおぶられながら走って進んでゆく。
しかし、「何か」は確実に彼らに近づいていた。
セラトは苦笑した。
「あ〜あ、こりゃやばいね、完全囲まれちった」
瞬間、
「眩しっ…!」
ハルがあまりの眩しさに目を細めた。
終焉の光が四方八方から、彼らに突き刺さる。
彼らは警察に完全に包囲された。
彼らを囲むようにして、暗い森に複数のライトがハルたちを照らしている。
「丹波京一!署まで同行してもらおうか!及び、宍戸深月、世良斗真!殺人の罪で逮捕する!」
森に響き渡る警察の声。金属音を鳴らしながら次々に向けられる銃口。
「さあ!手を上げろ!その女性を大人しく解放するんだ!」
ハルの足は先ほどの痛みと恐怖で震えていた。
後ずさりすると、雪がザクザク、嫌な音を立てる。
ミヅキはハルに優しく声をかけた。
「アホ子、安心しろ、言ったろ?お前は俺が必ず、守…」
次の瞬間、耳を塞ぎたくなるような銃声が森中に響き渡る。
今ちょうどハルに笑いかけていたミヅキが途端に深い雪の上に倒れた。
「み、みづ…キさん…?」