隣のスラップスティック!

□第一章
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「なーにが悲しくて 隣人と飯食ってるんだっつーの…俺は!」

朝の光りが差し込む小さなアパートで、
佐藤 秋成(さとう あきなり)は、あぐらをかきながら茶碗を片手に白米をかき込んだ。

その様子を見た田中 隣太郎(たなか りんたろう)はチェックのエプロンをしながら こちらに卵焼きを運んでくる。

「だって こうでもしなきゃ秋さん また倒れるじゃないですか」
「うっせーな、俺は頑丈なんだよ、だいたい」

箸で隣太郎を指しながら口を開くと、

「あ、卵焼き 今日は醤油にしてみたんです」
「えっ、あ、ああ、うまいよ、って、じゃなくて!」
「良かった、じゃあ俺、もう出ますね。秋さんもお仕事頑張ってください」
「あ、おい!」

後ろ姿に向かって呼び留めたが、彼はバタバタと秋成の部屋を後にしてしまった。


「あれから三日か…」

ため息を漏らす秋成の目の前には、隣太郎が作った卵焼き。




 佐藤 秋成の部屋に田中 隣太郎がご飯を作りにき始めたのは、つい三日前の出来事だった。



――三日間前。



 隣の二〇一号室の前で足を止た隣太郎は、黒ずんだインターホンを押した。


ピンポーン


「すいませーん。本日から隣に越してきた田中と申します、ご挨拶に伺いましたー。…すいませーん…?」


声を掛けても、中から人が出てくる気配はない。



「留守…?まあ日曜だし、出かけてるのかもしれないな。また後で挨拶に来よう」


と、隣太郎が隣の自分の部屋に戻ろうとした瞬間、

ギイ、と不気味な音と立てて、二〇一号室のドアがゆっくりと開いた。


「あ、すいませんお休みの所。俺、田中って言いまして、隣に越してき…たあ!?」

田中はドアの先を見るや否や、出した声が上ずってしまった。


なぜなら そこには…。


「は…はあ…あ…ら………!」


今にも死にそうな隣人が居たのだから。

「ひっ…おばけっ…じゃ、じゃなくて、だ、大丈夫ですか、え、えとっ」

隣太郎はインターホンの横の表札を見る。
そこには、《佐藤》の二文字があった。


「さ、佐藤さん!大丈夫ですか!」
「…は、あ…ら」

隣人の秋成は、隣太郎の腕にしがみつく。


「ちょ、しっかりしてください!」
「は…ら…」
「はら?…は!…腹痛いんですか!き、救急車!」

隣太郎が咄嗟にポケットから携帯を取り出すと、秋成は弱々しい声で口を開く。







「…腹………へった」






秋成は膝から玄関に崩れ落ちた。





「はい?」
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