隣のスラップスティック!
□第二章
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隣太郎の唐突な告白からあっという間に三週間が立とうとしていた。
二人の関係に、特に大きな変化があったという事はない。
ただ、秋成は以前より早めの時間に帰宅するようになり、隣太郎と過ごす時間を増やしていた。
「ただいま〜」
この日も秋成は仕事を早めに終わらせ、隣太郎が夕飯を作ってくれている自分の部屋へと帰宅した。
すると秋成の声に、
「う、わっ!秋さん、お、おかえりなさい!」
と、慌てた様子で隣太郎は手にしていた紙をぐしゃぐしゃにまるめ、ごみ箱へと放った。
「?…なんだ、慌てて」
「い、いえ。なんでもないです、あ、それより、今日のご飯、あさりのかわりご飯にしてみたんです!」
「おー、うまそうだな」
「さ、食べましょう!」
「ああ…?…」
秋成は、先ほどゴミ箱捨てられた紙が何だったのか、気になりながらも
隣太郎に背を押され食卓へとついた。
「ああ、そうだ隣太郎、俺さ」
「はい」
秋成は楕円のテーブルにつきながら口を開いた。
「日程はまだ調整中なんだけどさ 来月あたり出張で家空けるかもしんねえ」
「出張、ですか?」
「ああ、なんでも仙台の方に新規支部ができるみたいで先輩に同行して先方に挨拶しに行かなきゃならなくなってさ」
隣太郎は、秋成の口からでた「先輩」という二文字に眉をひそめた。
「秋さん。先輩って、あの人の事ですか?」
隣太郎は以前の居酒屋であった鈴木の意地の悪そうな笑み思い出していた。
「あ…ああ…そうだよ。鈴木 紅(すずき こう)さんっつって。俺の先輩」
「鈴木…紅さん…」
「…わ、悪ふざけが過ぎる人だけど根はいい人だし、なんだ…その…まあ心配すんな」
「…」
秋成が曇ってゆく隣太郎の顔を伺うと、
「分かりました…仕事ならしょうがないですもんね…!お土産買ってきてくださいよっ約束です」
「お、おお。任しとけ…!」
そんな微妙な空気が流れたあと、秋成は隣太郎が作ったあさりのかわりご飯を口いっぱいに詰め込んだ。