隣のスラップスティック!

□最終章
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 厳しい残暑が過ぎ、季節はあっという間に衣替えの時期になっていた。
佐藤 秋成はこの日の朝も、隣人の 田中 隣太郎が作った朝食をぱくぱくと口へ運んでゆく。

 隣人の隣太郎と恋人として付き合うようになってから約半年が過ぎようとしている。
未だに手を繋いだり軽いキスをしたりするプラトニックな関係だ。

「秋さん、お弁当ここに置いておきますね」

と、隣太郎は朝食をとる秋成を横にぱたぱたと制服に袖を通す。

「おー、サンキュー」
「では、いってきます、秋さんも気を付けて」
「おー。お前もな」

静かに絞められたドアの向こうに隣太郎の足音が響く。

軽い返事をした秋成だったが、このところ少し気になることがあった。
以前のような軽いスキンシップやキスが随分と減っている気がしてならないのだ。
時間が経つにつれ聞きづらくなってしまっているのもあり、最近はどこかよそよそしさも感じられる。

「いや、別に…触りたいとかじゃねえけど…」

だからといって急によそよそしくなるのも何故か気になってしまい、最近はその理由が自分にあるのかと考え込むようになってしまっていた。


「だー!やめやめ!仕事仕事!」

と頭を掻きながら隣太郎の作った弁当をランチバックに入れて秋成は家を出た。



□□□



「おはようございます」

そういっていつものようにセキュリティーカードをかざしオフィスの中へと足を進める。

「よーっす佐藤!」
「おはようございます、鈴木さん」

と同部署の先輩である鈴木 紅に軽く挨拶をしながら、パソコンを立ち上げると、

「佐藤、明日だけど 納品業務よろしくな〜」
「えっ?」

目を丸くすると、

「俺明日、出張っていったじゃんか」

そう言われ目をカレンダーに向けると、赤字で『鈴木さん出張 納品十八時まで』としっかり自分の字で書いてある。

「ああ、そうでした。了解です」

その様子をみた鈴木は、

「なんだ、また隣人のことでお悩み中か?」
「…あーもう…その鋭さある意味鈴木さんの短所ですよ」
「ばかもの、長所といえ長所と」

秋成はため息をつきながらも、鈴木に相談を持ち掛けた。


□□□


 鈴木が腹を抱えて声にならない声で笑う様子をあと何分見続ければいいのだろう。
先ほど相談を持ち掛けたあと、最後まで話を聞かずにずっとこのような感じなのだ。

「鈴木さん、いい加減にしてくださいよ、相談してるこっちが恥ずかしくなるじゃないですか」
「だ、だってっ…おま…ちゅーって…くくっ…!」
「もーいいですよ!」


暫くして、笑いすぎて涙目の鈴木が口を開く。

「ごめんごめん…!だとしても、そらお前に問題があるともかぎらないんじゃね?」

「え?」

秋成は、てっきり隣太郎のまっすぐな気持ちに照れて応えられない自分のせいだと思っていたので、その言葉には正直驚いた。

「例えば、他に男がいるとか」

「…!」
「なーんて冗談だって!まあ気になるなら相手に直接聞くのが一番だろ、うだうだしてると聞きづらくなるしな!」


「そう、ですよね…」

そういって鈴木は何事もなかったかのように仕事をし始めた。

《他に男がいるとか》

鈴木のその言葉に秋成は考えこんでしまった。




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