きっともう、好きじゃ足りないくらい。

□秘密の足音
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信男は革ジャンに袖を通し、バイクのキーを乱暴に掴んだ。
玄関に向かう信男を貴士が懇親の力で引き留めた。

「のぶくんっ、やめて!」

貴士は、砂金に話を付けようとする信男の腕にしがみ付く。

「じゃぁ、どうすんだよ!え!?お前、そいつにキツく言えんのか!」

「それはっ、…」

息が荒い二人。信男も気が気じゃないようだ。

「だけど、ぼ、暴力は、やっぱりダメだよ…」

俯く貴士。その言葉に信男は我に返った。

静まる玄関。ドアノブから手を話す信男。

「なら、そいつに電話かけろ」

「えっ」

「暴力はダメなんだろ。多分 俺、そいつの顔見たら 手え出ちまう。会って話せねえなら、今ここで電話かけてカタつける。貴士、そいつの番号知ってるか?」

「うん…職場の人だからね…」

貴士は携帯を取り出し、今は見たくない名前に電話をかけた。携帯が信男の手に渡る。

「砂金、か…」

ワンコール、ツーコール、スリーコールの途中で電話は砂金へ繋がった。
信男が声を発しようとした矢先、電話の向こうから砂金の陽気な声が響く。

《お、意外に早かったなあ、貴士さん。俺さ、丁度シャワー浴びた所だったから。今からでもアンタ抱けるよ》

「おい、てめぇ、」

信男の声はこれまで以上に低くドスの利いた声だった。信男の声に気づいたのか、砂金は

《……ああ、分かった。アンタがのぶくん?》

砂金は続けた。

《その節はどうも、お世話になりました》

笑う砂金に信男は苛立ちを覚える。

「こっちは世話になった覚えなんざねえんだよ、それよりてめぇ、俺の貴士に手出したみてぇじゃねーか、」

《ま。手っつうか、口だけど》

全く砂金はふざけていた。

「ふざけんのも大概にしろ、今度貴士に何かしたら、二度とその面下げて外歩けねぇようにしてやる」

《なにそれ。まじ怖え〜》

信男は低く

「分かったな、肝に命じておけ」

砂金はまるでこの状況を楽しんでいるかのように答えた。

《はいはい、おっけー。じゃあ 俺 髪乾かさないとだから切んね〜》

「なっ、てめっ」

ブツッ…ツー、ツー、ツー…

ふざけた電話は切れた。

心配そうに見つめる貴士。

「話、ついた?」

信男はやりきれない表情だった。

「いや、どうだろうな」

ため息をつく信男に貴士は謝った。

「ごめんね、のぶくん…」

「え…」

「こんなことになったのは俺のせいだよね、俺、これから警戒心持って過ごすよ、いやっ、今までが警戒心なかったってわけではないんだけど、だけど!」

信男は貴士を引き寄せた。

「う、わっ!」

「大丈夫、」

「え、」

抱きしめながら言った。

「大丈夫だから、俺が必ずお前を守るから」

「ん」

きつく抱きしめあう二人だが

秘密の足音はもうすぐに。
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